こんにちは土地                           五十嵐祭旅

こんにちは土地91「スリランカ前夜」

 

 2016年2月某日。

 仕事でスリランカへ行くこととなった。

 出発前夜、携帯電話を紛失したことにタクシーを降車直後に気づき、とても焦る。おそらくはタクシーの中だ。前泊する成田空港は遠く、まだ東京駅である。乗車予定の成田東京駅間のバスを見送ることとなった。レシートに記載されたタクシー会社の番号に同僚の携帯から電話し、確認をとるも「ない」と言われる。運転手と直接のやりとりはゆるされず、タクシー会社を通じてなので、まどろっこしい。2回確認をしたが、無いのだと言う。

 そんなはずはない、タクシーを降りた周辺の道路脇の樹木の下や側溝の中を見るもない。そうなると誰もが怪しく感じ、疑心暗鬼になるのだが、冷静になって考えると、同僚2名が後部座席、私は助手席、そこで携帯を見ていたのは確かである。降りる直前、ポシェットにいれたはずだが曖昧だ。

 助手席の自分が清算を済ます間に、2人は下車して先にバスの列に並んだが、私はトランクを最終チェックしている……! 

 トランクか。

 トランクの荷物をチェックした際に前屈みになったとき、ぽろりというのはありうる。再度確認するもない。バスが終わり、電車で成田空港まで行かないとならない状態に同僚を2人を巻き込んでしまった。仕方が無いので、東京駅から日暮里、そして京成線で移動する。ノイズの大きい東京駅から再度、タクシー会社に電話する。

「過去の経験であるのですが、座席の下に携帯が落ちるとマナーモードだと音がならいないんです。もう1回みてもらえませんか?」

 携帯電話1つで何をそんなに焦るのかと思うだろう。自分でもそう思った。

 旅の最中、時折、いや頻繁に頭をめぐるに違いない。

 時間は待ってくれないのだから、あきらめよう、きっとすぐに見つかってタクシー会社が保管しといてくれるだろうが、10日間後、電話をすぐにとめたほうがいいのか、とも思いつつ、明日の朝までまとうと決めた移動中の電車で同僚の携帯がなった。見つかったそうで、日暮里駅のロータリーへ運転手が届けてくれることとなった。感謝である。呼吸に意識を向けると、心臓がばくばくしているのがわかった。

<2016.8.5>

こんにちは土地90「女のいない金曜日」

 村上春樹の『女のいない男たち』を帰宅中の中央線で読んでいたせいか、こんなタイトルを思いついた。

 実際にしばらくの間、といっても5日間、同棲する彼女が奄美大島からフェリーで九州本土に移動し久留米を回るという染め物の旅に行った。

 そのうち最初の2日間は自分も友人とキャンプに行って楽しい日々を過ごしたのだが、キャンプが終わり1人アパートに戻ると、

 祭りの後だからか、1人だからか、部屋での孤独感が増幅された。

 家ってのは随分静かなんだなと感じた。人間が気づくのはプラスの出来事より、マイナスのとき、欠落が印象に残り易いらしいが、まさにそんな感じだ。病気になって、健康の大切さに気づく、みたいなものだろう。

 

 そんなある金曜日、JR国分寺駅近くの気になっていた串焼き屋に入った。

 空席の多い店内で席にいるのは男だけ。

 まさに女がいない状態で、静かにテーブルの人々を観察していた。

 めっちゃ食べる太った男性、かなり遠距離から週一回通っている三十代、そしてコの字型のカウンターの対角線上に座る赤塚不二夫似のサラリーマンが目に入った。どうやらもうすぐ還暦が近いようで、退職後の人生について悩んでいるらしい。

 幼い頃は田舎で大きな犬と草原を駆けたりして一緒に育ったが、東京ではそんな生活が難しかったので、犬を飼いたいのだそうだ。

 もう1つ夢があって、農作業を始めたいようだ。そこで耳がピクンと動いた。自分もレンタルで畑を借りているので、情報を共有しようと思ったが、席が遠いので話しかけづらい。入ったばかりでタイミングも無い。

 肉を焼く店主が「座学付きの畑が近くにありますよ」と、まさに自分が現在借りているレンタル農園の話をし出した。そこから話は脱線し黒部渓谷への旅行の話に移り、またも話すタイミングがない。

その後しばらく経って静寂が生まれ、僕はなんとか話しかけた。

「さっき畑のお話してましたよね」

 きょとんとされる。

「さっきお話ししてたレンタル畑借りてるんです」

 と言うと店主が「いくら?」と聞いてきた。

「年間五万円です」と返すと、

「高!」という反応だ。

 店主がそのサラリーマンに、常連客で親切な農家の人がいるからそこを紹介しますよと、踵を返した。実際、私に背を向け、いかに畑に金をかけるのが馬鹿らしいか話し出した。

 年間五万円で農業の授業がついて、野菜も肥料も農具も用意してくれる(安いくらいだと思っている)のに、まるで自分が、ぼったくりに騙された馬鹿な金持ち(さらに言えば悪人)のような扱いだ。

ひどく残念(怒りを通り越してショッキング)な気持ちでそこから北上すること5分、たまに行く、案山子のようなマスターがいるbarに行った。

 良い風が吹くのだ。

 どのくらい良い風かというと、店に入っても伽藍堂で、30分後にマスターが

「買い物に行ってました」と戻ってくるような店で、選曲がすごくいい。

 classicもjazzもrockもどれもあまり詳しくないのだが、その店の音楽はいつ来ても、いい音楽なのだ。無理してないと言うか、そのマスターが上辺ではなく好きな音楽をかけているよう感じた。

だいたい食事メニューを切らしていて「タコライス」か「カレー」の二択しかない。カレーはレトルトっぽい。半年前も同じで、この日もそれしかなかった。

 そういうことが素晴らしすぎる。そしてラムやウィスキーも安い。

 上京してきて、仙川、西荻窪、町屋、若林、尾山台、そして現在と何ヵ所か住んできたが、この残念なbarは最高だ。34歳にして初めて『ギャラリーフェイク』をロンサカパを飲みながら読んだ。

 良い金曜日だ。

 追伸、帰りにおみくじもひかせてくれるところだ。

<2016.5.30>

こんにちは土地89「5月17日(火)雨の図書館」

今年のゴールデンウィークはよく働いた。

富士山の麓だったり、港区の寺だったり、中野の公共施設で本を売った。

その代休を5月17日にいただいた。

 

4月から仕事量が増え、疲労もたまっていたので、小休止。

晴天ばかり続いていたのに、今日に限って雨。恵みの雨ということか。

傘を差し、ハーフパンツに黒シャツという格好で、近所の図書館に行った。

最高気温20℃だそうで肌寒いくらいだが、心地よい。

 

休日とは違い、閑散としているが、それでも人はいる。

先日テレビを見ていても思ったが、図書館で借りた本も同じようなことを書いていた。

高校か中学で習った「エネルギー保存の法則」だったり、

職場で学んだ「原因と結果」の話にも通じている。

エネルギーなり、いろんなものは、何かした行為が、予想外に反映されるようだ。

更に「選択」が大切なようだ。

 

効率ばかり追い求めてもいけないが、イベント会場は本がよく売れる。

家に戻って本をパラパラと眺めていたら、思わず天井を見上げるほどの音で飛行機が頭上を飛んで行った。

雨がやんだようなので畑にカブを採りに向かう。

<2016.5.17>

こんにちは土地88「ゴールデンウィークの日差し」

 2016年4月29、30日、GWを利用して実家に帰省し、ジンギスカンとワインを食し、東京へ戻ってきた。

 戻ってきたあたりから調子がおかしい。胸焼けがする。

 寝込むこととなった。

 実家で「そろそろ籍を入れようと思う」なんて話をしたせいだろうか。

 それともただ単に食い倒れたせいだろうか。

 父の説教がとてつもなく長かったせいだろうか。

 ゲップがとまらず、全体的に不調である。

 幼い頃から母の実家(実家から川を越えて2kmほど離れているが、小学校にはこちらの方が近い)によく遊びに行った。というよりか友人宅が近いため、夏休みの間は祖母の実家で昼食をとり、また友人宅へ遊びに向かうのだ。

 そんな祖母が帰り際に食べさせてくれた揚げたてのシンモチ(揚げ煎餅のようなもので、シンシンと冷える冬場に天日干しにした米の塊を揚げる)が、原因かもしれない。

 御年八十歳となった祖母は、なんでも中途半端にとっておく癖がある。焼き魚にしても、野菜炒めにしても、コロッケにしても、少し残しておいて1、2週間ゆうに経過する。

 近くに住む母(祖母の娘、第一子)や年に二回帰省する叔父(祖母の息子、第三子)が、慌てて処分をする。なんでもとっておく祖母の具沢山の味噌汁と卵焼きが好きだった。

 アルコール中毒気味であった祖父と長男(第一子)がいた頃、たまにある山ぶどう酒とトマトジュースがとてもおいしかった。勿論、両方ともノンアルコールだが、思えばそのころから熟成させるのが好きな祖母だったのかもしれない。

 長々と話してしまったが、ようはシンモチに使用された油がとてつもなく古いものであったのではという憶測だ。祖母ならありえる。

 

 東京で寝込んでいるうちに5月になり、会社へ1日行って、今度は富士山麓へ向かった。

 イベント(瞑想合宿)での書籍販売である。会場へ行きがてら、河口湖駅で圧倒的に多い外国人観光客に驚く。

 数年前来た時と全然違う印象だ。

 たまたま自分1人しかいないバスに乗ったので運転手に理由を尋ねると、世界遺産に登録されたのが大きく、登録後は山梨から箱根へと抜けるのが外国人観光客の王道ルートになっているらしい。7月の開山を過ぎるとまたさらに爆発的に増えるそうだ。既に日本人2割、外国人8割だというのに一体どうなってしまうのだろうか。

 

 瞑想合宿にきても思うし、2月スリランカの仏跡ツアーにも仕事で行って思うのが、コウモリのことだ。コウモリが、獣と鳥の戦争で双方に八方美人の顔をする話がイソップ寓話にある。あの話はコウモリを悪く描き過ぎているのではないかと思う。

 富士の麓で、温泉に入って、瞑想をする。

 今年のゴールデンウィークは、ゴールデンとまでは行かないが夕日程度の輝きはあったのではなかろうか。

<2016.5.7>