「暮らしのbooks335」開店にあたり

 

あたりまえのように毎日をすごしていますが、生まれること、そして大なり小なりいろいろありつつも今日まで自分の命が続いて生きていることの有り難さを考えてみると、二度とないこの一秒一瞬の積み重ねである毎日を、自分なりに納得のいくようにすごしてゆきたいと思わずにはいられません。

 

本を通して、今の人、昔の人、専門の人、尊敬する人、嫌いな人、さまざまな人から、

暮らし方、すごし方のヒントを得て、より快適に、楽しく、よい毎日にできたら。

そんなふうに一緒に思って下さるすべての人のための、本棚です。

 

2015年7月1日 あんみつや 拝

 

 

短い期間でしたが、お読みくださってありがとうございました。

またどこかでお会いいたしましょう。

みなさまの暮らしが、毎日たのしく、しあわせでありますように。

 

                        2016年11月9日

 

 

 

 

32(最終回) 『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』 リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット

副題の100年時代とは、人が100年生きる時代、のこと。

先日観たNHKのセンテナリアン(世紀をまたいでいる=100歳を超える長寿の人)特集では、2014年生まれの日本人の平均寿命は100歳を超えると示されていました。

現在30代の私の頃でも90代後半。人間いつ死ぬかわからないとの覚悟で生きている私とて、ふつうに長生きするとしたら、備えなければとうてい生きていけません。

そのような事実が提示された時、では、具体的にはどうしたらいいのか、わたしたちはどのように知り、考えたらよいのでしょうか。その助けになる一冊がこの本です。

 

約400ページに及ぶ厚手の本ですが、やわらかい語り口と豊富なシナリオで、すいすい読めます。

1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーンという3人の人物をモデルにして、それぞれの世代の働き方、給料や貯蓄の特徴をまとめ、それぞれに求められることを提示。例えば、1945年生まれのジャックの年代なら、学校を卒業し、多くは、一つもしくは少ない数の会社で定年まで勤め上げ、引退して比較的恵まれた額の年金を得ながら生活するという3ステージの生き方。1971年生まれのジミーの年代は、ジャックのような3ステージの生き方は経済的に難しいのでは?と気づき始め模索し、自分がどのようなアクションを取るかで大きく人生がかわってくる世代。1998年生まれのジェーンの世代は、自分の頃は3ステージの生き方を送るのは無理と自覚していて、慎重に人生を考える世代。

それぞれのシュミレーションを読むと、年代によって、働かなくてはならない年数、引退の形、「仕事」の考え方がちがってくることがよくわかります。

100年ライフに必要なのは、選択肢をたくさん作っておくこと、自分をしっかり理解すること、相性のいいもの(結婚相手も、仕事も)をえらんでいくこと。余暇を娯楽ではなく、自分の知識や経験、友人などの無形の資産を形成することに使うこと。一つの仕事を長い時間、長い年数続けるのではなく柔軟に働くことを考えて動くこと。そして、企業や国家が、人々のそのような柔軟な働き方を支援するよう、制度を整え、構造をかえていくこと。それがなくては、個人も国家も危ういことを指摘しています。

 

本書のいいところは、この100年ライフでは健康な状態で過ごせる時代がいまより長くなると予測されることから、長寿を贈り物ととらえ、前向きにとらえて変化していこうと訴えているところ。日々新聞に掲載される「下流」とか「格差」とか不安をあおるだけの雑誌の見出しとは違う、分別と、冷静な分析と、人生への愛の感じられるこの本は、これからの100年ライフを生きる全ての人が読むべき1冊だと思います。

読み終えて、自然と、さて、どうやって生きていこうかな、とちょっと楽しみになる本です。

 

(2016.11.09)

 

31 『Papa told me』 榛野なな恵

もし手元にひとつしか本を残せないとしたら?

とても迷うと思いますが、間違いなく最終候補にまで残る大切なシリーズです。

 

『Papa told me』は1987年から続いている漫画です。

2005年のヤングユー休刊後はコーラス、別冊コーラス、cocohanaと雑誌が変わりながらも不定期連載されています。

幼いころ母を亡くした小学生の的場知世(ちせ)と、作家であるその父信吉の日々の暮らしや周りの人との交流を描きます。

 

このシリーズとの出会いは高校生の時。当時珍しく漫画も置いていた地元の図書館で、読みたいものを読みつくして、なんとなく手に取ってみたのがきっかけでした。初期は、父子家庭ならではの困りごとや偏見に遭遇する描写や、世間の目への抵抗色が少し強くて、マイノリティーの苦労や、したたかさ、私たちは負けないもん、といった感じが少し読みにくい部分もありました。でも7~8巻あたりから、魅力的な登場人物やストーリー、グレイッシュなカラー口絵、直線的で端正な絵柄など、読んでいてとても心安らぐように・・・エミリ・ディキンスンの詩や大伴家持の和歌、ヴィヴィアン・ウエストウッドの言葉など、ちらりと出てくる小道具もなんとも。古本屋で全巻そろえ、毎晩お風呂で読み、新刊が出るのを心待ちにするようになりました。妹もとても気に入っていたので、結婚して実家を出るとき妹にゆずり、また古本屋でセットで買い直し、雑誌が変わってからも買い続けています。

 

掲載誌が変わってからは絵柄や雰囲気が少し変わり、知世ちゃんはゆるキャラのようになり、ページ数が減ったためエピソードも小さな感じに。文学的で社会派な香り、ファッショナブルなヤングユー時代が一番好きですが、ミニチュア感のある現在のものも、魅力があります。いつまでも続いてほしい漫画です。

 

ヤングユー時代のものは、四季折々のエピソードがあるのですが、それでも絵柄のせいか、各エピソードのはじめと終わりに添えられたまるで詩のような言葉たちのせいか、なんとなく秋や冬に読むと、よりしっくりきます。

よろしければ、秋の夜長にどうぞ。

 

(2016.10.21)

30 『有元家のおせち作り』 有元葉子

10月におせちの本の紹介なんて、デパートのおせち予約じゃあるまいしと言われてしまいそうですが、いえいえ、今こそです。

 

この本は2003年発行の『有元家のおせち25品』の内容を2010年に新しくしたもの。メインとなるおせちは25品と数こそ同じですが、そのラインナップに若干の入れ替わりがあり、材料や作り方もよりおいしく簡単になっています。

読み物の部分や使う道具も少しずつ違いますし、おせち作りから派生させたほかのレシピも、新たに加わったものもあり、一見同じに見えてまったく違う本になっています。

 

おせちは、切る、煮る、焼く、蒸す、煮付ける、煮ふくめる、からめる、と和食の基本がつまっている、という視点からまとめられた前作、そして、おせちづくりで大切なのは家族みんなが好きな味であること、という今作、どちらも発見があります。

定番の栗きんとん、黒豆、田作り、だて巻もあれば、牛肉のしょうゆ煮、大根とかにのレモンあえ(今作)、豆とたらこのオリーブオイル炒め(今作)など、有元さんならではの道理にかなったおせち料理もあります。

また、この数年の間に人々の価値観も変わり、気候の変化などで素材の状態にも変化があったそうで、自分の目でそうしたことを見定め、考える大切さをも教えてくれます。

おせち料理の一つ一つもおいしそうなのですが、なんといっても、おせちを使って作る料理のまたおいしそうなこと・・・きんとんと泡立てた生クリームをあわせてサンドイッチにしたものや、さつまいもの皮のメープルかりん糖・・・そしておせち作りでいそがしい年末、おせちの材料で並行して作れるレシピや、有元一族がこれを目当てにあつまってくるというかき揚げがのっかった年越しのそばなど、見ているだけで想像がふくらみます。

 

レシピだけでなく、そろえるべき道具や、おせちつくりのスケジュールまで載っていて、まさに至れり尽くせりの一冊。

12月になってから慌てて、ではなく、10月の今からこの本を手元に置いて、心の準備をしながら年の暮れまでの楽しみを一つ増やしてみませんか?(そして、栗のシーズンの今、もし栗の産地に行ったら、おいしい甘露煮を買っておきましょう!)

 

(2016.10.05)

 

 

旧作のこちらは古書か図書館でどうぞ。

29 『庭をつくろう!』 ゲルダ・ミューラー作 ふしみみさを訳

今回は絵本をご紹介。

この本は1989年に出版された『ぼくの庭ができたよ』の改訂新版。

Amazonの商品ページにある「出版社からのコメント」によれば、復刊を希望する多くの声に応え、作者のゲルダ・ミューラーさんが文章を全面的に見直し、絵も原画により近づけて製版されたそうです。もとの版はドイツ語版からの翻訳だったものが、今回はフランス語からの翻訳となり、主人公の名前「ベンジャミン」も、「バンジャマン」へ。

 

この本との出会いは、雑誌「momo vol.9」の特集「書店員さんおすすめの住まい・インテリアの本50」で東京のかもめブックスの店員さんが挙げていたうちの一冊から(この特集もおすすめです)。最寄りの図書館にあったので借りてみたら、その緻密でみずみずしい絵と、シンプルなストーリーの魅力にすっかり感じ入った次第です。

奥付には2015年出版とあったので、新しい作品なんだ!とその時は意外に思ったのですが、じつはロングセラーの名作だったわけです。しかしながら、まったく色あせないその絵柄や登場人物のおしゃれでシンプルな洋服!

荒れ放題の庭のある家に引っ越してきたバンジャマン一家は、家族みんなで少しずつ庭を手入れして、近所の友達や大人、庭にやってくる鳥や100歳を超えるりんごの木たちと交流を深め、庭で四季を楽しみます。ちょっとしたガーデニングのこつや、草花を使ったおもちゃの作り方など、大人が読んでも楽しい(むしろ大人のほうが楽しい?)一冊です。

 

秋になって涼しくなってきたら、こんなことしてみようかな、次の春はこうしようかな、など、この本を見ながら考えるのも楽しいと思います。

草花や図鑑が好きな人にもぜひ。

 

(2016.09.07)

28 『白いシャツを一枚、縫ってみませんか?』 伊藤まさこ

「夏休み」の頃になると、「自由研究」がしたくなりませんか。

そんな気分の(おもに女性の)方におすすめなのがこの一冊。

スタイリスト・伊藤まさこさんの久々のソーイング本です。

タイトルの通り、載っているのはすべて「白いシャツ」。

えりのあきのきれいなVネックのシャツやノースリーブのブラウス、衿つきシャツなど、どれもシンプルで、体をきれいに見せる素敵なデザイン。

ひとくちに白いシャツといっても、使う生地やデザインによって楽しみ方もさまざまなんだなあと、いろいろ試したくなります。

そして写真がこれまた美しい。モデルさんの、しずかで、においたつような色気、首の角度など、写真をめくっているだけでも満足な気分に・・・なりつつ、ぜひご自分の一枚を縫ってみませんか。

 

(ソーイング本の出版社ではなく、筑摩さんから出ているところに妙に感心・・・。)

 

(2016.08.05)

次回は9月7日更新予定です

27 『「いのち」を養う食』 佐藤初女

佐藤初女さんは、1983年、自宅を開放して「弘前イスキア」を開き、1992年からは青森県岩木山麓に「森のイスキア」を開きました。この施設で初女さんは、苦しみを抱え救いを求めて訪れる人たちを受け入れ、食事をともにし、寄り添う活動をしてきました。イスキアとはイタリアの島の名前で、ナポリの富豪の息子がこの島を訪れたことがきっかけで、生活を改め、内省することを学び、司祭館に滞在したエピソードから名づけたそうです。

初女さんは残念ながら今年2月に94歳で亡くなりました。

 

表紙には、おむすびをむすぶ初女さんのすがたがうつっていますが、初女さんといえば、やはりおむすび。「おにぎり」ではなく、「おむすび」と言うのが初女さんのこだわりです。

 

食事というのはさまざまな食材から「いのち」をいただくことだから、必ず元気になる。食材の「いのち」は私たちの体に入って、ともに生きていくので、食材選びは決しておろそかにはできない。こうした考えから一つ一つていねいに作られた食事、ごはん、おむすびを食べることで、生きることの喜びや、自分を大事に思ってくれるひとの存在に気づき、苦しみを乗りこえる人も多いそうです。

 

この初女さんの眼鏡を通してお米を見れば、ていねいにやさしくすすいでおいしいご飯を炊きたくなるし、おむすびが食べたくなってきます。

読むうちに、食べるということの意味、食事のたのしみをじんわり思い出してしまう1冊。

 

暑いとなんだか作るのも食べるのもおっくうになりがちですが、ぜひそんな時こそ、この本を手に取ってほしいなと思います。食欲がなくても、ごはんさえていねいに炊き上げ、お塩をきかせたおむすびをむすんでみたら、あら不思議、きっと元気がでてきます。

 

文庫でも出ていますので、お好きなほうでどうぞ。

 

 

 

(2016.08.05)

26 『花森安治伝 日本の暮しをかえた男』 津野海太郎

同じ一冊の本でも、読んだときの自分の状況や、興味の強弱によって、すっと内容が頭に入ってくるときとそうでないときがあります。いわば、本にも読むのに適した旬というものがある。

この本は、きっと、いまがその旬だと思い、今回取り上げたいと思います。

 

花森安治は雑誌『暮しの手帖』の名編集長として知られています。

いま、NHKの朝の連続テレビ小説で花森氏をモデルとした人物も登場し、特番が組まれ、注目の人となっています。

その意味でも旬かもしれませんが、この本の中で私が忘れられなかった箇所を3つ引用します。

 

 

 「そのとき、おぼろげながら思いついたことは、戦争を起こそうというものが出てきたときに、それはいやだ、反対するというには反対する側に守るに足るものがなくちゃいかんのじゃないか。つまりぼくを含めてですよ。(略)一般のわれわれは、それがなかったから簡単にゴボウ抜きだ。抜く必要もない、浮いておるんだから、こっちへこっちへ寄せてくれば、すくいとられてしまう。風呂のアカみたいなものだった。

 それでぼくは考えた。天皇上御一人とか、神国だとか、大和民族だとか、そういうことにすがって生きる以外になにかないか。ぼくら一人一人の暮らし、これはどうか。暮らしというものをもっとみんなが大事にしたら、その暮らしを破壊するものに対しては戦うんじゃないか。つまり反対するんじゃないかと。」(僕らにとって8月15日とは何であったか)

 

 「広告をのせることで、スポンサーの圧力がかかる、それは絶対に困るからである。」

 

 「民主々義の〈民〉は 庶民の民だ

  ぼくらの暮しを なによりも第一にする ということだ

  ぼくらの暮しと 企業の利益とが ぶつかったら 企業を倒す ということだ

  ぼくらの暮しと 政府の考え方が ぶつかったら 政府を倒す ということだ」

(見よぼくら一銭五厘の旗)※銭は箋のたけかんむりをとったものが正しい表記ですが、変換できなかったので暮しの手帖社の現在の表記に合わせました

 

これらの言葉は、戦中、大政翼賛会での標語作成に関わった花森の深い反省と決意と信念から生まれたものです。二つ目は、『暮しの手帖』に企業広告を載せなかった理由を述べたもの。製品の機能や耐久性を比較する名物コーナー「商品テスト」の中立性と読者からの信用を確保し、その結果を追求するためには不可欠でした。そして最後のものは、水俣病などの公害が報道されその企業の責任などがあらわになりつつある頃に書かれたものです。

これらの言葉は、わたしたちにとって、いま、深く心にとめればすむという状況ではなくなってきているのではないかと危惧しています。声を上げ、行動を起こす一人一人の責任がすでに求められる、切実な世の中になってしまったようで、どうしたらよいのだろうという思いが去来しない日がありません。こうしておろおろしたり、毎日の生活に追われているうちに、気づいたら何もかも取り返しがつかないことになる、そういう歴史をいやというほど目にしてきたはず。

 

手間をおしまない美しさやおいしさ、誠実な製品を見る目など数々の提案をしてきた花森の、いわば生活のスパイスになるような言葉ももちろん素晴らしく、広まったらいいなと思います。一方で、そういう言葉や雑誌にあらわれた表現や記事の根底にはこうした花森の強い信念があったこと、そしていまこそその言葉たちの意味をたくさんのひとが受けとめて欲しい。自分の暮しを心から愛する一人として、心底願うばかりです。

 

私は単行本で読みましたが、現在は文庫で読めます。

花森の伝記はいくつか出版されているなか本書はややかための印象ですが、豊富な文献やさまざまな周辺人物がでてくるところが魅力です。

 

(2016.07.20)

25 『たまちゃんの保存食 増補版』 たくまたまえ

春から夏にかけての今の時期は、旬の食材を使った保存食シーズンというイメージ。

いちごジャム、梅干し、らっきょう漬け、あんずやすもものお酒、しそジュース、新しょうがの甘酢漬け…

そんなこの季節に、これまた好みの合いそうな料理研究家や著名な方々がこぞって愛用(愛読)しているのを知り、これはきっと好きな味!と見込んで買ったのがこの本。

たくまたまえさんは東京府中市在住で、旦那さんに作る日々のお弁当や保存食づくりを紹介する方。この増補版は2011年の初版の内容にレシピを追加し再編集した新版。

 

この本の魅力は、まずはる、なつ、あき、ふゆ12カ月のカレンダーがついていて、その時期旬の食べ物で作る保存食が順番に並べられているところ。たまえさんの保存食スケジュールが写真入りで紹介されているのも読んでいて楽しいのです。

そして肝心のお味。どれもシンプルな材料、作り方なのですが、おいしい。目新しい組み合わせやものすごく手のこんだ作り方をするわけではなく、素材の味や季節を楽しむことのできる素直な味です。

また、日々の常備菜レシピもついていて、ほんとうに一年中活躍してくれる一冊。

 

保存食づくりは下準備や材料の用意などすこし手間がかかりますが、仕込むのにかかった時間の何倍も楽しめるもの。忙しくてちょっと疲れやすい今の時期、30分でも時間をつくってちょっと頑張ると、そのあと何度も楽しめる季節の味が出来上がります。

 

私は先日あんずのコンポートを作りました。煮沸消毒した青いしましまのふたのジャムの空き瓶に入れてみたら、あんずのオレンジといいコントラストで、うれしいひと瓶に。

次はどれを作ろうかな、と、ページをめくりながらわくわくしています。

 

(2016.07.06)

24 『体においしい健康ごはん 万能お酢レシピ』 重信初江

蒸し暑い時期になってきました。

今回は、これから夏に向けてとくにおすすめの料理本をご紹介します。

 

この本はお酢をテーマに、酢を使った料理、たれ、ドリンクを紹介しています。お酢は米酢、黒酢、ワインビネガー、バルサミコ酢の4種類を料理によって使い分け。定番のサラダや煮物、マリネから、スープ、麺、果物酢まで、65のレシピが掲載されています。

 

特別なものを買わなくても、だいたい家にある材料で作れて、シンプルで美味しいお酢を使った料理が多く、どれを作ってもおいしいのがうれしい。

冷やし中華のたれもつくれます(これがまたおいしい)!

おすすめはそうめんビビン麺。夏にぴったりです。

 

お酢は、そのまま飲むと歯や胃に刺激が強いので注意が必要ですが、料理に使えばカルシウムや鉄分などのミネラルの吸収を助けたり、糖分の分解を助けたり、疲労回復効果、ポリフェノール含有、など、体にうれしい作用がたくさんあるそう。一日にお酢を大さじ1〜2杯分とることが推奨されているそうです。

 

私にとってはこの時期よく手にとる、夏の定番の一冊。

ぜひお試しください。

 

(2016.06.15)

23 『「くりかえし」の家事を楽しむ小さな工夫』 田中千恵

家事というものの範囲やその回数を考えると際限なくて、ときにはやる気がしなくなることだってあります。一日三回のご飯、主食は米かパンかホットケーキか?お味噌汁かスープか?サラダ?コーヒー?お茶?ヨーグルト?果物?もう習慣になっていて何気なくやっている献立を考えることや、材料の調達、やりくり、実際に作ること、洗い物、次の食事の準備…大変だ!もういや、と思ってしまったら、本当にいやになってしまうようなことだよなあ、と、よくよく考えるとそう思います。食事づくりに限らず、掃除、洗濯、買い物など、家事は毎日の繰り返し。生きていて、自分で身の回りのことができるうちは、ずっとし続けなければいけないことです。

 

これを効率よくやることや、短い時間でやること、節約、オーガナイズ、逆に丁寧にやろうとすること、自然に配慮したやり方を重視すること、美しさにこだわること…何にせよ、人それぞれのこだわりがでてくるのも、そうした家事を少しでも楽しく、あるいは能率的に、もしくは自分らしくやるための工夫なのかもしれません。

 

今回ご紹介する著者の工夫の源、それは、「愛」!

おうちへの愛、家族への愛で満ち満ちていて、読むのがまぶしいくらいです。

20冊目にご紹介した内田さんも相当の家族・家を愛する方ですが、それを上回るかも…と思わせる愛し方です。

著者の田中千恵さんは、ブログ(その名も)「おうち*」を主宰。三人の男の子、自営業の夫と暮らし、すぐ近くに住むお父さんの介護をしながら生活。

将来の夢はお嫁さんだったという田中さん。掃除道具や器、古道具、かごが好きということで、本の写真をぱらぱらめくると、定番のあれやこれやとご飯の写真が多いので、なーんだ、ありふれた本、と思いそうになるのですが、きちんと文章を読むと、選んだ物や、食事の一つ一つに、家族を思うその背景が、本当にびっくりするくらい愛情たっぷりに書かれています。

わーすごいなー、とちょっと距離を置きそうになりつつも、「おみそ汁は朝に作っています。前日の夜の残りものを温める方がラクやけど、一日のはじまりに家族のみんなへ「今日もがんばれ」の気持ちをこめて、作りたてのおみそ汁を食べてもらうことが、私の中の小さな決めごとです。」などという文を読むと、自分が毎朝作るスープもなんだか特別なもののような気がして、いつもの手順が楽しくなってくるし、「小さな鍋に落としぶたをしてコトコト煮たり、菜箸でやさしく混ぜながらフライパンで丁寧に炒めたり、じっくりと時間をかけて作ることが好きなので」というフレーズを思い出すと、野菜の下ごしらえで包丁を握りながら、いつもは手早くつぎつぎに切ろうとしてしまうところをとんとんとゆっくりやってもいいんだよな、と丁寧に切ってしまったりします。

 

「ささやかな幸せ」とか「丁寧な暮らし」、「あたたかい家庭」とか、よく聞くけど何だか言うのはむずむずするフレーズですが、そういう普遍的な「幸せな感じ」って、こういうのかな、という暮らしのすがたがこの本にはあります。

 

仕事してるから、子供が小さいから、忙しいからこんなの無理!とは言わず、自分の生活スタイルの中で、家事を楽しむポイントを見つけるのがやはり重要だと思います。

 

もう少し、これもちょっとやってみようかな、という気にさせてくれる田中さんの本。

シリーズでどうぞ。

くりかえし みんなでやれば 楽しいよ

そんな連帯感に包まれるかもしれません…。

 

(2016.06.01)

22 『合本 俳句歳時記』 新版 角川書店

私は残念ながら俳句はたしなみませんが、この歳時記はときどきぺらぺらめくります。

辞書を読む感覚です(辞書を読むのが好きという方にはわかってもらえる愉しみかと)。

 

歳時記はもともと季節の事物や年中行事をあつめてまとめた字引の一種ですが、江戸時代から俳句のいわゆる季語をあつめ、分類・解説したものをさすようになってゆきます。

今回ご紹介するものもそうした歳時記のひとつですが、文庫本サイズでコンパクトなのが魅力。季語の解説、類表現、その語を使った句が載っています。歳時記には卓上用の大きなものもありますが、吟行、句会など外で詠む機会も多い俳句。持ち運びにもこれなら便利です。

 

また、辞書として歳時記を読むのも愉しいものです。

例えば、夏・生活の章「胡瓜もみ」には、「生節(なまりぶし)や赤貝を刻んで配するとうまい。」などと書き添えられていたり、たまに今はどんな季節の言葉があるかなと探すのも楽しく、勉強になります。

建築家の中村好文さんの『暮らしを旅する』を読んでいたら、中村さんも旅先で読む本としてこの新版を持ち歩いていらっしゃるようす。

みなさんも鞄に一冊、いかがですか。

 

(2016.05.18)

21 『モノ・コト・時間から自由になる フランス式整理術』ベアトリス・キャロ、クレール・マゾワイエ

フランス版・ライフオーガナイザー本です。

著者のベアトリス・キャロは、カリフォルニア在住中に自らの「片づけられない症候群」を「家事の仕組み化(オーガナイジング)」により克服、このメソッドをフランスの家庭のライフスタイルに応用して紹介するなど、片づけアドバイザーとして活動しているそう。

以前紹介したライフオーガナイズのフランス版ということで、フランス人の事情はどうなの?と気になって手に取ってみました。

 

全体のトピックややり方は日本でもおなじみのものですが、この本の魅力は生活全般についてとっても詳しく、手取り足取りでその手段、方法を教えてくれることと、フランス人ならではのユーモアとペーソス、時にシニカルな笑いを誘う言い回しでしょうか。

「はじめに」では、のっけから家にまつわる仕事を

「・資材購入部長兼、在庫管理担当(つまりは、スーパーへの買い出し)

 ・財務部長、監査部長、経理部長(銀行口座のチェック、自動引き落とし依頼手続など)

 ・技術部長(テレビの配線や調節、パッキングの交換など)

 ・広報担当(年賀状を出したり、伝言を残したり)

 ・敏腕秘書(病院の予約や、ややこしい書類の整理整頓)

 ・人事部長(子供がいるなら業務はさらに拡大!)」

などと表現。

また、

「・モノの片づけ方や整理整頓の方法

 ・衣類の簡単なお手入れ

 ・書類の整理整頓

 ・毎食の献立の決定

 ・育児休暇サバイバル法

 ・バカンスの手配

  (中略)といった役に立つさまざまな知恵を、学校では教えてくれません」

との指摘には、首肯。小さい頃から、こういう授業が学校で受けられたらなと思って今日に至りますが、最近こうして必要性を訴える人をよく目にするようになったので、そのうち実現する日が来るのかも・・・家庭では教えきれないしむしろ教えて欲しいものもありますよね。

 

しかし、こうして並べられてみると、家の中の仕事はじつは膨大で、多岐にわたっていることがよくわかります。ただ漫然とやっていては時間ばかりかかるし、計画性や自分にとっての優先順位・要不要をみきわめないと、とてもうまくやっていけないのが本来なのだな、と、改めて驚きます。こうした家の中の仕事をうまく切り回すためには家事を「オーガナイズ」すること、つまり「段取りを組んで、効率よく家事をこなす」ことが必要、として、効率化自体を目的とするのではなく、毎日の暮らしをもっと楽にするための一手段として、オーガナイズの手法を紹介しています。

この計画性を持って家事を管理することは、性別や仕事、家の種類、家族構成などに関係なく、どんな人でも必要で、自分に向いた・必要なアイデアだけをうまく取り入れて自分の時間と人生を謳歌しましょう、というのが本書のコンセプトと言えましょうか。

 

とにかく例やアイデアが具体的・現実的なのと、幅広い分野を網羅しているので、ひとつひとつ自分の暮らしと照らし合わせて点検していると読むのに時間もかかりますが、随所にはさまれるフランス人のプチ・体験談に日本とは違う事情や風習が感じられるときがあり、楽しく読めます。

暮らしの字引的一冊として、ぜひどうぞ。

 

(2016.05.04)

 

20 『幸せのしたく』 内田彩仍

4月、あたらしい生活が始まる方も、そうでない方も、爛漫の春の訪れに気持ちがあらたまる、そんな頃でしょうか。

 

あたらしい気分の毎日のはじまりに、あたらしい暮らしのコツと、変わらず大切にしたいことを見直すきっかけをくれる一冊を今回はご紹介します。

 

福岡県から、暮らしやインテリアのようすをさまざまな媒体で発信している内田さん。著書も多く、これまで何冊か読んだことがあったのですが、いろいろ自分とは系統が違うかな?という位置づけの方でした。

今回の本は、これまでの本と重なる部分もありながらも、暮らし全体についてたくさんの写真とともに触れていたり、いいな、共感できる思える部分が多くありました。

 

雑誌や新聞でいい言葉に出会ったときは、自分の文字ではなくて、その印刷された文字の部分を切り取ってノートに貼ったほうが、すっと心に入ってくる、など、たしかに、と思ったり。

 

インテリア、洋服、料理、洗濯など、やり方や好みは人それぞれでしょうが、内田さんのすごいなあと思うところは、言葉通り、本当に毎日を大切にしていること。

 

夫と猫との暮らしのなかで、例えば平日は旦那さんが仕事にでかけてから掃除などを始める、とか、日中裁縫などをしたあと、旦那さんの帰宅前にさっと掃除して、また気持ちよく過ごせるようきれいにしておく、とか、週末二人で過ごす時間を楽しく有意義にするために服の準備や休日前の大掃除をしておく、などの習慣を読んでいると、家族と過ごす時間を大切にするっていうことは、その準備の時間も含まれるんだなあ!感心。

また、換気扇もその日の最後にごくろうさま、と毎日拭く、毎朝家中の花瓶を洗って水を換える、など、家のすみずみまで愛しているんだなあと伝わってきます。

 

家事、もとい家でのしごとを愛し、家族とすごす時間のためにもろもろを整える。その一つ一つが毎日を自分なりに幸せにすごすためのしたく、であることが、ここまで感じられる本はなかなかないのでは、と思いました。

 

好みやスタイル、仕事や家族構成は違っても、きっと万人に共通の大切なことかな、と感じたので、気持ちや生活があたらしくなるのに合わせて、暮らしを見つめ直す一冊として、ご紹介します。

 

(2016.04.06)

 

19 『考えの整頓』 佐藤雅彦

3月は、12月より忙しい、という方も多いのではないでしょうか。

煮詰まりそうになったり、毎日につかれた時、いつもとちょっと違う視点を頭の中に入れてみると、なんだか行動する力が出てくる気がします。

 

一つ目は、ポリンキーやだんご三兄弟、ピタゴラスイッチなどで著名なメディアクリエイターの佐藤雅彦さんの『考えの整頓』。この本は暮しの手帖で「考えの整とん」として連載しているものをまとめたもの。前回ご紹介した美濃羽さんの本で「私の本棚」にある本として紹介されていて、ひかえめながらも歴年の佐藤さんファンのくせに暮しの手帖で時折読むだけだった私ですが、そうだ、まとめて読んでみよう・・・と手にしました。

 

ここにある27篇は、佐藤さんが日常の中で感じた「不可解な事」、それもとくに新種の不可解さを取りだして書く事で整頓しようとしたもの、とのこと。

 

例えば、1篇目の「「たくらみ」の共有」という話では、NHKの大河ドラマを偶然テレビで見始め、その回の最後まで見てしまった。それ以前も以後もそのドラマは見ていないが、なぜこの回を最後まで見てしまったのか。その理由を考えると、見始めた時、ドラマの中では主人公の家来が周囲にとある謀をえんえん説明しているところだったから、という結論に達したと佐藤さんは分析しています。はらはらするような奇策を聞き、あたかも自分もその一味に加えられたかのような気になり、その謀がどうなるのかを見届けたくなったとのこと。そしてこの企みが一体感を生み出す事について、中学生時代の出来事を思い出して紹介しているのです。それは、ある授業参観前日のホームルームで、ある男子生徒が「先生、明日、これわかる人って問題出すのやめてほしい。俺、絶対手を挙げられないから、母親が恥をかく」それに対して先生はちょっと考え、「じゃあ、わからなくてもわかっても手を挙げろ、ただし本当にわかる人はパーを、わからない人はグーをだせ」。そうして、翌日、いつもは斜に構えている不良までもが手を挙げ、答えがわかる者もわからぬ者も平等に愉快で、傍目にも活気あるクラスができあがったといいます。この一緒に作り上げる一体感が、最近世の中に欠けているかも・・・と結んでいます。

うれしそうな不良の嬉々とした姿が目に浮かびほほえましくなりながら次へ次へと読み進め、この目の前にある現象や出来事、自分の思考の経緯、すじみちを見逃さず、考え続ける佐藤さんのこの着眼点、不可解を見つけ、考える事、その習慣と技術に静かに感動すること、しきりです。

ひとつひとつは短い文章ですので、お忙しい中でも、ぜひ。

 

もう一冊は、文化学院の創立者・校長であった西村伊作の娘たちからの聞き語りで構成された『愛と反逆の娘たち 西村伊作の独創教育』をご紹介するつもりでしたが、こちらは面白いあまりに今回まとめきれなさそうなので、来月以降にまた。佐藤春夫が伊作の追悼会でのスピーチで紹介した、伊作に教えられた夫婦喧嘩のしかた、「腹が立ったときはカンシャクをおこして物を投げこわしては損だから、タンスをあけて女房の着物をそこら中にバラまくといい。こちらは非常にあばれた感じがするし、何の損失もない。女房はあわてて着物をたたみにかかるが、着物をたたむしぐさというのは人の心をおちつかせるし、見ているこちらも風景としてのしおらしさに打たれて反省する」、こんなクスリと笑えるけれども的確で、真理とも言える伊作の言葉のかずかず、そしてその娘さんたちの自立した、芯の通った姿

、この文庫版が出たのはすでに30年以上前のことだけれども、今に通じる達見、読んでいてしゃんとするやら、元気が出るやら。こちらは読み始めたら止まりませんが、気ぜわしいときこそ、本質を見たいもの、ということで取り急ぎ書名のみご紹介いたします。古書か図書館でどうぞ。

 

(2016.03.16)

18 『FU-KOさん家の小さなくふう、ていねいな毎日の作り方』 美濃羽まゆみ

「町家暮らし、手づくり、私自身のこと、子育て」の4章からなる本。

 

著者のFU-KOさんこと美濃羽まゆみさんは、子ども服の作家さん。長女・愛称ゴンちゃんを出産し、小柄で既製服が合わなかった彼女のために服を作り出したのがきっかけで、ネットオークションやネットショップにハンドメイドの子ども服を出品・販売するようになり、現在作家として活動されています。

長年、暮らしやハンドメイドのことをつづったブログを運営していて、そちらも美しい写真と人柄のみえる文章、そして何よりなんともかわいらしいお子さんの写真が魅力的で人気があります。

この本は著者の3冊目の作品。

1冊目、2冊目は洋裁本で、私は1冊目の女の子の服の本の表紙のかわいさに手に取ったのが著者の本との出会いでした(その表紙の女の子は、お子さんのゴンちゃんでした)。

その後ブログを通読し、この本が最近出たので読み・・・

感じるところが多く、その理由を考えた翌朝。

 

「正義とか快適とか、一方向にしか向かわない言葉は、心を狭くする。」

新聞朝刊に鷲田清一さんが紹介していたホスピス医の徳永進さんの言葉。ほとんど一言一句たがわず、私が前夜に思い至ったことでした。

 

暮らしの本を重点的に読むようになって、そこにはいろいろなアプローチがあるのですが、その多くが大まかに言えば「快適に改善していくことが絶対的に善である」という暗黙の了解によって成り立っているなあと思うようになりました。もちろん、快適であることはよいことで、心地よい暮らしには必要な要素です。でも、そのためのメソッド、ルール、ツール、時短、エコ・・・これらの言葉の洪水には、気ぜわしさや、他を排除するような、無意識の攻撃性をうすうす感じるようになりました。かと言って、「私らしい」とか「丁寧な」という言葉も、それらの効率主義賛美への免罪符のようで。

 

しかしながら、この美濃羽さんの本も「ていねい」という言葉を使っていますが、本を読んで受ける印象は、他の「丁寧」さが売りの本と、ちょっと違っていました。同じ「梅仕事」や「味噌づくり」をしていて、子どもとのことについても書いていて、食べ物や洗剤に自然に近いものを使っているというような共通点がある人の本もあるけど、どう違うのか・・・。

 

それは、先にあげた洪水のような言葉を使っていないということにも由来するのでしょうが、美濃羽さんの暮らしと文章からは、どこか、「センスオブワンダー」が感じられるからかもしれません。

町家の、陰翳や、小さな庭にひとつひとつ宿る草花の美、子どものちょっと困るような行動のうしろにある育っていこうとする力、お客さんへの真摯な感謝の言葉、道具の美しさ、いいことやそうでないことにゆらぐ心、ときどきユーモア。同じことをしていても、同じ物を見たり、使っていても、そこに気づくかどうか、それをどういう言葉と写真で伝えるか。はっきりそう書いてあるわけではないけれど、自分というフィルターを通して、どう感じて、考えて、だからこうしている、ということが伝わってくる表現になっているから、この本は魅力的なのだな、と感じました。

 

人は人、うちはうち、という、言葉にはしないけれど、そういう凛とした姿勢がどこかに感じられるのは、京都生まれ京都暮らしという著者の京都人気質が無意識のうちに醸し出されているのかもしれませんが(とよそ育ちの私には感じられますが)、自分の持っているもの(環境、人とのつながり)をみつめ、大事に暮らす、これが大事で、自分も忘れずにいたいなと思ったのでした。

 

(2016.03.02)

 

17 『もたない、すてない、ためこまない。身の丈生活』 アズマカナコ

「電気代500円」

アズマカナコさんの代名詞(ときに枕詞)になっているこの言葉。

目にすると、思わず今つけているエアコンを消したくなります。

 

アズマカナコさんは省エネ生活研究家。1979年生まれですから私とそこまで大きく年は離れていないのですが、私の母が生まれた頃の時代の生活を実践しています。

車、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、携帯電話を持たず、庭には烏骨鶏、こたつは炭で、家族4人で暮らしています。

ものやエネルギーは最低限必要な分だけ使い、自分の力でできることは自分で。その結果がこの電気代500円なのです。

 

雨水をためてトイレを流したり、夏にはたらいに水をはってあたため、夕方お風呂で使ったり、米のとぎ汁や石鹸水で髪を洗ったり。

残念ながら?昭和生まれの一員である私も、その方法は知っていても実際やることはなかった様々な生活方法が書かれています。

このような生活は、そうか、環境にもお財布にもやさしいならやってみようか!と思うのは簡単でも、実行するのはそう容易ではありません。覚悟と、知恵と、家族の協力が不可欠だからです。

アズマさんのすごいところは、近所のご年配の人や昔の家事生活本などから得たそういう暮らしの知識を、まず自分ができるかどうかやってみて、納得してから日々の暮らしに取り入れているところです。そして、お金の節約や環境問題への取り組みが目的ではなく、あくまで自分の力で工夫して暮らしていくことに意義を見いだしているところ。ご自身も、お子さんが大きくなったらこの生活がこのままできるかはわからないとしつつも、もともと現代的な生活スタイルだった旦那さん、お子さん2人が一緒にこの生活を送って行けるのは、この生活をアズマさんが楽しんでいるからでしょう。

 

アズマさんは、現代のさまざまな「利器」やそれを使う人を批判しません。ただ自分がやりたいようにやってみたら、それらを使わない生活になっただけ。そういうスタンスが、読んでいて気持ちいいです。

 

この本を読んで考えさせられたのは、「身の丈生活」という言葉です。

もし平安時代に冷凍庫があったら、清少納言は枕草子に氷室の氷ではなくアイスクリームを書いたでしょうし、江戸時代にラップがあったらみんな喜んで使ったでしょう。みんな、その時代に存在する技術を使うのは当たり前のことで、これを否定するならば火だって使えなくなってしまいます。

ただ、自分で使う分だけの火をおこせるだろうか?いや、昔キャンプでやったけどちょっと怪しい。

自分が使う分の水を自力で汲んでこられるだろうか?これは難しい。

自分が着る服を全て仕立てられるだろうか?布とミシンがあれば服は縫えるけど、着られるクオリティかしら。

冷蔵庫や冷凍庫に頼らず、食材をやりくりしていたまないごはんを作れるだろうか?これもちょっとそのための訓練が必要。料理は好きだけど。

・・・など、自分の力と知恵だけでどのくらいの生活ができるかひとつひとつ考えてみると、いかに普段、お金や「利器」、エネルギーの力を借りているか、いや、借りなければ生活できないのかに愕然とします。

自分の力と知恵(そしてそれを日常的に補ってくれるような家族や知人の存在)でできる生活が、自分の本当の身の丈に合った生活であると思うと、見目良いインテリアや美味しい料理を楽しんでいる場合ではない気がしてきます。

災害や、非常事態が起こりえる今日、どれだけこうした暮らしていくための、もとい生きて行くための技術や知恵を持っているかが、運命の分かれ目さえも作るかもしれません。

 

しかしながらこうした生活をするには、丸腰では無理です。知識と、技術、経験、そして覚悟が不可欠(あと、健康な体も)。

前回のスモールスペース暮らしもそうですが、本当に自分がどう暮らしたいのか、それを実現するためには住むところを選ぶところから考えなくてはいけないと思います。転勤があるから、とか、社宅だから、うちはマンションだから、子供が小さいから・・・という言い訳をする人がいたら、そこまでしたいわけでもないのかな?と思ってしまいます。仕事や家を変える気がなかったとしても、きっと工夫して自分の出来る範囲で実現できることもあるはず。

自分が思う暮らしをきちんと実現するには、それと同じくらいの覚悟が必要です。昭和の時代と比べて夏は比較にならない暑さですから熱中症など心配ですし、いろいろそうした細かいよけいなお世話を言いたくなる点は除いても、そうした覚悟と意志を持って暮らし続けるアズマさんには、やっぱり大きな拍手をおくりたくなります。

 

この本は写真が多く、アズマさんの理念と生活がわかりやすくまとまっていますが、イラストやそれぞれのアイテムの利用のしかたなども知りたい方は下記も合わせてどうぞ。

全部真似することはないですが、自分の暮らしを見直すきっかけになるかもしれません。

(エアコンは二段落目あたりを書いている時点で消しました。そろそろ寒くなってきました)

 

(2016.02.17)

16 『ものが多くてもできるコンパクトな暮らし』 さいとうきい

「同じ洗剤と調味料を使っている人とは気が合いそう」

これは、ここ数年暮らしに関する本やブログ等を見る中で発見した法則です。

洗剤と調味料の選び方には、その人のものに対する考え方、コスト感覚、食べ物の好みと来歴、健康管理への意識が表れるのでしょう。

さすがにすべての洗剤と調味料が合致している人にはまだ出会っていませんが、この法則に当てはまる、暮らし方に共感できる方が何人か、私の本棚の中にいます。

 

そのうちのお一人がこちらのさいとうきいさん。rulesという本で紹介されていたお部屋の様子からぴん!ときて、運営されているブログとご著書を通読。small spacesという、海外ではインテリアの1ジャンルともなっている考え方を紹介するとともに、ご自身がそういう限られたスペースで生活する中で得たアイデアや暮らし方を発信して、ご活躍です。なかしましほさんのお菓子、有元葉子さんの料理、無印良品、使っている食器をはじめとするたくさんの愛用品の共通項に加え、洗剤と調味料の法則にも合致。以来、折に触れて、困ったときはブログや本を参照し、そうか、こういう手があったか、じゃあうちの場合はこうしてみよう、などと考えるきっかけをもらっています。

 

さいとうきいさんの職業は「ライフオーガナイザー」。ライフオーガナイザーとは、アメリカの「思考と空間の整理のプロ」プロフェッショナル・オーガナイザーの日本版。この肩書きを持って活躍する方を書籍や雑誌等で目にすることが最近増えたように思います。

ライフオーガナイズの、「暮らしや住んでいる家、認識や片づけのくせなどは人によって違うのだから、片づけ方に万人共通の正解はない」というスタンスが共感できます。考えてみればそれは当たり前のことですが、暮らし方や片づけ方は「こうあるべき!」や、「これがいま注目されています!」のような本もけっこう多いように感じます。そして今や、ブログの書籍化も活発な時代、書店に行くともう雨後のタケノコのごとく、次から次へとまあ、と感心してしまうほど、暮らし本と片づけ本が並んでいます。そんな中で、ライフオーガナイザーの方々の本は、単に見た目が美しかったり整っているだけではなくて、そこにいたるまでの考え方や、家族や生活に合わせた理論と方法が書かれていることが多く、あ、この方法は私にも合いそうだな、とか、今までこのやり方は敬遠していたけど、こういう考え方もあるのか、などと参考になることが私の場合は多いようです。

 

今回ご紹介するきいさんの考え方で共感するのは、「本当に自分にとって大切なことに使う時間と気力を生み出すために日々暮らしを見直している」ということ。そして、日々の暮らしの中でちょっとした不都合(「イラッ」)を感じたら改善したり、情報収集と自己分析(とユーモア)を忘れず、家というスペースや自分の時間をフルに活用しようという姿勢。

また、最近ミニマリストばやりで持たない暮らしが注目される中、「ものが多くてもできる」というこの本のタイトルからもわかるように、必要なものの数は人によって違う、自分に必要なものはしっかり持つ!というところ。そして、ライフオーガナイザーならではの、災害対策も含めた物の持ち方。ミニマリスト本のように「この人、ものが少ないのはいいけど有事の際とか病気のときは大丈夫かしら」というよけいな心配をせずに読めます。

 

ぴん!ときた方は、ぜひブログ(SMALL SPACES)、1冊目の著書『狭くてもすっきり暮らせるコツ61』(宝島社)も合わせてご覧下さい(1冊目の本ではこう収納していたのに、「あっ、場所がかわってる・・・」という部分も。日々改善されているようすなので、それもご承知の上お読み下さい。)

 

インテリアやこの本はスタイリッシュな印象ですが、ブログからは親しみやすい気配りのお人柄がつたわってきて、おすすめです。 

 

(2016.02.03)

15 『まいにち食べたい”ごはんのような”クッキーとクラッカーの本』    なかしましほ

お菓子づくりがお好きな人なら、きっと一度は目にしたことがあるであろう、なかしましほさんの本。

なかしまさんは会社員、レストラン勤務を経て、2006年にからだにやさしい素材を使って作るお菓子の工房「foodmood(フードムード)」をスタート。

今回ご紹介する「まいにち食べたい”ごはんのような”」シリーズは現時点でシフォンケーキ、クッキーとビスケット、ケーキとマフィン、クッキーとクラッカーの4冊あります。

 

なかしまさんのこれらのお菓子の特徴は、バターや生クリームを使わず、菜種油などの植物油を使うこと、従来のお菓子づくりの「一般的な作り方」とはちょっと違う手順で作られていることが多いこと、でも、とても素朴な美味しさで、あとをひいてしまうこと。

クッキーでは、粉はふるわないし、材料をボールに入れてぐるぐるっとまぜたり、手ですりあわせたりして、生地も伸ばしたらカードやナイフで四角や三角に切れ目を入れてそのままオーブンへ入れるだけ。冷蔵庫で寝かせたりしないし、洗い物も、植物油なのでバターのようにべたつかずさっと洗えるし、なんて楽ちん。

しかし!お菓子をある程度作ってきた人や、様々なレシピ本を見てきた人は何となくお気づきになるでしょうが、これは、実は簡単なようで、奥深い作り方。例えば、クッキー類は170度というやや低めの温度で30分焼くのですが、これも、しっかり生地に油がなじんでいないと生地の温度が上がりきらずかりっと焼き上がらなかったり、さっと生地をまとめるところを一般的な作り方のように「しっかり」こねてしまうと固くなったり、油の量が多いと、他の具材の味が表に出てこなかったり・・・

なかしまさんのレシピのお菓子を作る時に肝心なのは、本にあるとおりにまずは忠実に、素直な心でやってみること、そして、素材の味がよく出るお菓子ばかりなので、美味しいと思える素材を選んで作ること、そして、既成概念にとらわれず、そのお菓子の個性を楽しむこと、でしょうか。おそらく、作るたびに出来上がりが微妙に違ってくると思いますので、お菓子づくりは科学、ということで、それも面白いことと味わって下さい。

 

シリーズの中でもこのクッキーとクラッカーの本は、甘いのもしょっぱいのもあり幅広い味が楽しめること、タルトやケーキよりさらに手軽に作れること、そして、実際になかしまさんの教室などで寄せられたユーザーの質問をしっかりくみ上げた、なかしまさんのクッキーの作り方のコツが特に詳しく書かれていることから、今回特におすすめします。

定番のクッキーを始め、「ゆずこしょうのクラッカー」「ちんすこう」「そばボーロ」「甘酒クッキー」などシンプルながらちょっと変わっていて、でもシンプルな素材の味がおいしいものなど、次はどれを作ろうかな、と楽しめる一冊です。

材料さえあれば、慣れればものの5分もあればオーブンへ入れるところまでできるものばかり。なかしまさんのお菓子をまだお試しでない方は、お好みのお菓子がのっている本からぜひ手に取ってみて下さいね。特に、素朴でしみじみ美味しいものがお好きな方や、油やお砂糖控えめがいい方(お子様にも。)、手早くささっと作りたい方に、おすすめです。

 

なお、現時点でなかしまさんのお菓子は「ほぼ日」サイトでもレシピがいくつか紹介されています。詳しい作り方も掲載されていましたので、そこでまず試してみても。

 

どの手順も、材料の分量も、焼き時間も、形も、それぞれきちんと意味がある。その均衡は、なんだか数学の公式のような、美しさと、すこしの緊張感と、よろこびのあるレシピです。

 

(2016.01.20)(01.23加筆)

 

14 『ひでこさんのたからもの。』 つばた英子 つばたしゅういち

 

「人間はいつか死ぬのよ」と小さい頃から母が言っていました。

考えてみれば、人間の死亡率は100%。その時がいつか、どんなかたちかはわからなくても、その事実は誰にとっても変わらないことでしょう。

 

2015年は、印象に残る訃報を多くきいたような気がします。

 

あの人も、あの人も・・・

 

その、記憶に残る人のひとりが、この本の著者の片方、つばたしゅういちさんでした。

前作『あしたも、こはるびより。』を春先に読んだばかり。12月、書店で本書をみかけ、あ、続編がでたのねとページをめくって「おわりに」を何気なくみたら、そこに、6月にしゅういちさんが亡くなっていたことが書かれていました。日課の、いつものお昼寝をして、そのまま安らかに亡くなったそうで、まるで知り合いのおじさんが亡くなったかのような寂しさと、同時に、しゅういちさんらしいお亡くなり方だったのだな、と、少しほっとしたような気持ちとが入り交じりました。

 

1928年生まれの英子さんと1925年生まれのしゅういちさん。しゅういちさんは、東京大学卒業後、アントニン・レーモンドや板倉準三の建築設計事務所を経て、日本住宅公団に入社、数々のニュータウンや団地の設計を担います。その後大学教授、自由時間評論家として活動。愛知県高蔵寺のニュータウンに丸太小屋を建て、そこで英子さんと生活しているようすは、何冊かの本になっています。英子さんは、愛知県半田の老舗造り酒屋の生まれ。幼少時から胃腸が弱く、お母さんの手料理以外は食べずに育ったそう。結婚後も、今に至るまで食生活にあくなき探究心で日々むきあっている英子さん。そのおもてなしのようすは『あしたも、こはるびより。』に詳しいのですが、キッチンガーデンと称される自前の畑の食材や、全国からこれと見込んで取り寄せた食材から作り出されたありとあらゆる料理の数々を冷凍庫に保存して、そのときに合わせたもので饗応。そこにはしゅういちさんの手作りのカードが添えられて・・・心づくしとはこういうことを言うんだな、というお手本のようなお二人。

 

「外のものを食べるのはダメだったのよね。だから自分で作ってた。最初はおいしくなかったけれど(笑)」

「家族の健康は毎日食べる食事で決まるから、もし誰かが体調を崩したら自分の責任なの」

そういって毎日きっかり1時間畑に向かい、せっせとしかし自分のペースで台所に立つ英子さん。

「ものはなくてもなんとか暮らせるけれど、食べるものはちゃんと選ばないとダメね。食は命につながっているから。」

 

 

しゅういちさんは、「なんでも楽しく」がモットー。若い頃からヨットが趣味で、お給料4万円の時代に70万円のヨットをポンと買ってしまったり。

 

「貯金をするとか、保険に入るとか、そういうことはいっさいなし。だから健康でいないといけないの(笑)」と笑う英子さん。今の丸太小屋の家に引っ越して、畑を持ってやっと、これさえあれば、貯金がなくても大丈夫、なんとかなる、と思えたそう。

その畑には、しゅういちさんお手製の黄色くペイントした野菜の標識や、畑道具、案内板などが、いたるところにあり、片づけるのが苦手だという英子さんと、整理整頓したり道具を改良したりが得意なしゅういちさんとの、適材適所の極みとしか言いようの無い分業っぷりがほんとうに見事で、素敵なご夫婦なのです。

この本は、「ひでこさんのたからもの」である食にフォーカスしる部分が大きいですが、料理の指南本でも、ライフスタイルの本でもない、どこか人生の重みや、ありがたさ、自分のできることや信じることを、世の中に惑わされずにしかししなやかに持って生活「し続ける」ことの奇跡とも言うべき生き方を感じさせる1冊です。

「ここ10年くらいはお正月の箱根駅伝を見るたびに、たすきをかけて走るランナーの姿を自分にかさねて、母からたすきを受け継いだときから次の世代に渡すまで、一生懸命毎日を暮らさなければと思っています。」という本の締めくくりの英子さんの言葉には、同感しつつ、とても重く感じられます。

とは言え、たっぷりの写真や英子さん、しゅういちさんのユーモアたっぷりのコメントが楽しいこの本、背後にあるメッセージは、読む方の心に応じて、受け取ればよいのだと思います。

ひでこさんがどうぞお元気で、今もおすごしでいらっしゃいますように。読み終えて、そう祈らずにはいられません。

 

(2016.01.06)

 

 

 

13 『暮し上手の家事ノート』 町田貞子

「スーパー主婦」のはしりとも言うべき著者は、「町田式整理学」と呼ばれる独自のメソッドでその道では高名。秋田佐竹藩御指南役の妻であった祖母に幼い頃育てられた経験や、微生物学者でスタンフォード大卒の父の言葉がその生活観に生きていると著者は言います。

 

巻頭「はじめに」を読むと、これだけで「読んでよかった」と思ってしまう、お父さんの言葉が。

 

大正12年、著者が小学6年生の時、関東大震災に遭い、東京田端に住んでいた著者一家も埼玉の知人宅へ身を寄せることになります。「着がえの下着と靴を一足、それに学校の道具をリュックに入れ、帽子も忘れないように」と両親に言われてローソクの灯りの下、準備する著者。まとまった荷物の大きさを見て父親が、「何をそんなに入れたのだ。こんなに背負ったら歩けなくなる」。著者は、指示されたもののほかに、大好きなよそゆきの水色のリボンのついたボイルの白い服や、よそゆきの革靴を入れていました。それを見た父親は、叱らず、静かにしかし厳しく次のように言ったそうです。

「そんなものは役に立たない。運動靴と、服を持つのならいつも着ている木綿のものを入れなさい。貞子は大きくなるにつれて色いろなことに出会うと思うけれど、そのときは決してあわててはいけない。大きく息を吸い、静かにはいて、今何をしたらいいか、何を持ち出したらいいかを考えて、きまったらすぐに実行すること。今回のようなときはものをたくさん持つのが一番危険だ。なぜだかわかるか。そのものをなくしたくないと思って無理をするからさ。」

著者はこの言葉を聞き、本当にそうだと思ったそうです。そして、その後荷物をたくさん持っていたために逃げおくれて炎の犠牲になった人たちの話を聞くにつれ、この父親の言葉をかみしめたそうです。

 

非常時の対応に人の生き方や、本質があらわれてしまうのだなあと、強く印象に残っている箇所です。

 

さて、この本はそんな家庭で育った著者が、結婚して夫の転勤で9回の引っ越しを重ねる中で得た経験と、私淑している羽仁もと子の「簡素な生活」の思想とが合致してできた暮しのスタイルをシステマチックにかつあたたかく書きまとめたものです。

著者の、家事を主婦の立派な仕事として真摯に取り組むさまは、当時の時代をうつしつつも本当は古びていない大切なことだな、と、自分の日々の家事労働ひとつひとつの大事さや尊さを教え、励ましてくれる一冊です。(ぞうきんをしぼることも拭くことも本気で!と著者。)

内容も台所のこと、調理、食器の収納、整理、掃除、家具、衣服の収納や手入れ、家族の家事分担、保健と衛生、主婦の時間割、家計管理・・・と、どんな人も生活している以上どこかしら得ることのあるトピックばかり。続編『続 暮し上手の家事ノート』もあり、そちらは月ごとに「○月の家事ノート」という章立て。それぞれの季節にすべき家事をまとめていてこちらも手もとに置いておくと、「あ、そうそうそろそろこれをする時期だったなあ」と思い出せて便利な一冊。いずれも現在は古書で入手できます。標題の方は、現在は『暮し上手の整理学』として出版されているようです(改題されていますが同内容ですので、ご購入の際はご注意を)。

 

(2015.12.16)

12 『ふたりが見つけた、いつもの「普通服」』 林行雄 林多佳子 

坊主頭に丸眼鏡の、ちょっとやんちゃな雰囲気を漂わせる行雄さん、「感じのいいブス」って言われたかったんです、と言う、さわやかな笑顔の多佳子さんご夫妻のお店Permanent Ageのことと、二人のこれまでやおしゃれについての考え方をやわらかくまとめた一冊です。

 

Permanent Ageの提案するのは、大人の普通服。圧倒的に多いのは普通の日。だからこそ普段を楽しくする「普通服」こそが毎日を豊かにしてくれる、そんなコンセプトで仕入れた服やオリジナルアイテム、ちょっと日常を楽しくする雑貨などをこのお店では取り扱っています。場所は兵庫県西宮市。「

662」や「イショナル」の経営を経て「Permanent Age」を開くに至るまでのことが書かれています。店名の由来は「永遠、時代、ずっと変わらないものを、その時代に合わせた”今”にしていく ことを目指している。ニーズは変わるが芯は変わらない」という考えから。

 

『年齢を重ねた人にとっての「似合う」は、「身体に合った服を着る」ことだと思うんです』

『大きすぎず、小さすぎずのサイズの服こそ、あなたに似合う服ですよ』

こんなアドバイスは、だれにとってもきっと当てはまる、普遍的なことかもしれません。


多佳子さんの、ベージュがかった白髪に白い丸襟シャツ、パールの耳飾りに白いベルトのメンズライクな時計など、シンプルでも体に合ったアイテムと色使いで、こんなにも素敵になるのか、と、お二人より若輩世代ながらも参考になります。

しかしながら、このシンプルな着こなしが様になるには、ただ上質な物を選べば成立するのではなく、着る方の「私」の身も心も、きちんとお手入れが必要なんだろうなあと推しはかってしまいます。


若い頃、経理の勉強のために多佳子さんがつてで働いていたクラブのオーナーママのエピソードが印象的でした。そのママは、水商売の場であるクラブのお店には多佳子さんを決して行かせることもなく、心遣いのすばらしい人だったそう。

『朝はちゃんと起きて身支度を整え、掃除をして新聞という新聞に目を通し、夜は仕事用の着物に着替えてさっそうと出かけていく。「でも、この頃の若い子はダメやね。安物の服ばかり着ているし、字を書かせても汚い。これだけたくさんお給料を出しているのだから、もっと自分磨きのために投資しないとね」』

ソフトな本ですが、こうしたちょっといい言葉や、エピソードのある、気軽に読める一冊です。

本で紹介されている、行雄さんが描いたという、「林」はんこで描いた絵も見物。

 

 

では、実際どういう風にアイテムを選んで、どうやって着こなしたらいいの?ということが知りたい方は、お二人の著書『毎日の大人服』の方を手に取ってみて下さい。

 

(2015.12.02)

11 『ドイツ式 暮らしがシンプルになる習慣』 門倉多仁亜

門倉多仁亜さんの著書が好きで全て読んでいますが、エッセンスが凝縮されていているこの本を特におすすめしたいと思います。

 

ドイツ人のお母さんを持つ門倉さんは、日本で生まれ育ちながらドイツ流の暮らしの中で生活してきたそうです。それに加え、お父さんの転勤や婚家のしきたりの違いなど、さまざまな文化や生活を経験し、それを咀嚼した結果が現在の門倉さんのスタイルとなっているとのこと。

 

この本は、門倉さんにとって心地いいシンプルな生活をするために工夫したり、実践してきたことを紹介するというコンセプトでまとめられています。

「ゆとりが生まれる習慣」

「情報をシンプルに管理する習慣」

「部屋を快適に保つ習慣」

「自分のスタイルをつくりだす習慣」

「おだやかな心でいるための習慣」

「人づきあいの習慣」

と章にわかれていて、それぞれ実践していることやドイツの親類のエピソードをおりまぜつつ、具体的に紹介。

通して読むと、ONとOFF、自分でやることとやらない(もしくはできない、苦手な)ことを経験から見極めしっかり分けるということが大切だということが書かれているように思います。

例えば(これは他の著書にある話ですが、象徴的なのでご紹介)料理に関する仕事をしている門倉さんですが、包丁は和包丁は手入れがしきれないのでステンレスのものにしている、中華料理と焼き肉は家では作らないと決めているのでそのための食材や道具は持たない、など、「料理家なら包丁の手入れをすべき!」とか「食材や道具もいろいろ持っているべき!」とは考えず、いたって自然体なのです。この本で言うならば、靴のヒールの高さを一定にすること、そうすればパンツの長さも一定に決まり、着るスタイルも限定できる、などの習慣が紹介されています。

 

選択肢が多いほうが楽しいのでは、と考えられがちですが、こうやって自分の習慣やくせ、できることとできないことを取捨選択して行くと、つまるところシンプルに、その人のスタイルの核が現れるようです。

そうやって自分のスタイルをみきわめるツールとして、参考になさってはいかがでしょうか。

他の著書もおすすめします。

 

(2015.11.18)

9 『もっと楽しく、少しだけていねいな お母さん仕事』 ひぐまあさこ10 『日用品のアイデアBOOK』 香菜子

本を読むことのいいところの一つに、自分と異なる境遇・環境の人の考えや知識、生き方を学べるというものがあると思います。

今回の2冊は、「お母さん」という立場の女性が書いたものですが、子供がいてもいなくても、結婚していてもそうでなくても、暮らしに取り入れたら楽しい、あるいは役に立つアイデアがちりばめられています。


ひぐまあさこさんは3人のお子さんのお母さん。食べること、体を整えること、季節を楽しむこと、など分野ごとに暮らしかたのルールや大切にしていることを沢山の写真とともに紹介しています。

朝起きたらまずは自分の身支度をしてしまって、それから他の家事にとりかかる、とか、おせちのつめ方はデパートのカタログをテキストに!とか、あ、これやってみようかな、と思ったり、そうそう、と共感したり。毎日の行動ひとつひとつを、この行動の本質(だいじなこと)って何かな、とつきつめていったら、こういう生き方暮らし方になるのかな、と、背筋が伸びながらも、なんだか読んでいてほっとする本です。それは、仕事をやめていわゆる「専業主婦」の暮らしになったことを「「お母さん」という仕事に転職したと思って」、楽しく、ていねいに暮らすひぐまさんの、家族と暮らしへの思いが感じ取れるからでしょう。


香菜子さんは2人のお子さんのお母さん。モデル、イラストレーター、デザイナーのお仕事をしながら、近年その暮らしぶりや着こなしの本を出版されています。

この本は『日用品のアイデアBOOK』というタイトルの通り、この日用品をこんな風に使ったら便利、とか、楽しい!というアイデアがたくさん。コピー用紙と水引でおしゃれなショップバックを作ってしまったり、業務用品店で買った包装用品を活用したり、ありふれたものを意外なものに変化させたり、見慣れた物も色使いや組み合わせでこんなにおしゃれで素敵に見えるのか〜!と、見ていて楽しい一冊です。(スライムも白で作って、人形用の目玉をつけてかわいいおばけに・・・)


この2冊に共通するのは、仕事や家族に時間を割きながらも、自分のアイデアで工夫して暮らしを楽しもうとする、加えて家族や周りの人とそれを共有して楽しんでもらおうとするその意識と意志と行動力でしょうか。ほんとうに、暮らしも人生も、ちょっとのスパイスでこんなにたのしくなるものだな、と、時々見直す本たちです。


(2015.11.04)



8『基本の中華』オレンジページ

載っている料理の何を作ってもおいしい、という料理本はありそうでなかなかないものです。

色々試す中で見つけたそんな本のうちの一つがこの本。

料理研究家の渡邊純子さんが担当したこの本の特徴は、大きく2つ。

基本的な調味料と、ねぎ、しょうが、にんにくがあればおおむね作れる味付けになっていること。

下ごしらえをしっかり手順よくすれば、あとはぱっと炒めたり焼いたり煮たりすればとってもおいしく本格的な味に仕上がること。

メニューのラインナップも、麻婆豆腐に始まり、えびのチリソース煮、餃子、酢豚、様々なスープ、ご飯もの、麺・・・「基本の中華」というだけあって、食べたい作りたいものばかり。

メニューをきいて思い浮かべるあの味この味が、準備さえ手間をかけて頑張れば、こんなに簡単に、ありふれた食材を使ってできるんだ、と、感動ものです。

入門書の装いですが、味は本格的で、中華はこれ1冊あれば、十分といってあまりある本です。

この充実度でこのお値段!

中華料理屋さんの定食1食分の価格で、一生、中華料理の先生が家にいてくれるようなものです。

ぜひ、ご家庭に1冊。

まず、おひとつ作ってみてください。


(2015.10.21)


7『伊藤まさこの食材えらび』伊藤まさこ

伊藤まさこは現代の柳宗悦である。と私は思っています。

巷にあるもののなかからその美しさ、きれいさ、かわいらしさ、おいしさをそっと見つけ出し、私たちにその姿を見せてくれる。

あっちこっちへでかけてゆき、また見つけ、雑誌にそれを連載したり、本にしたり。

彼女の目と手にかかれば、ありふれたコップも、魚肉ソーセージでさえも(著者のインスタグラム参照)、その内なる美しさに、はっとしたり、感心したり、してしまいます。

エピキュリアンを自称されているくらいで、たくさんの物を紹介する、その買いっぷりに驚いたり、嫉妬する人もいるようだけれども、それらの物は何もあなたのお金で勝手に買われたわけでもあるまいし、身銭を切ってその中からこんなに沢山のすぐれものを紹介してくれて、こんなにありがたいことはないじゃないの、と思うのですが。


そんな女史にはたくさんの著書がありますが、今回はこの『食材えらび』をご紹介します。

この本は「食材えらび」と言うだけあって、料理本ではなくあくまで著者の愛用している食材を紹介するとともに、その食材をどうやって食べているかがかいま見られるようなレシピがそれぞれについています。どの料理を作ってもおいしい料理本、というのはあんまりないものですが、この本は厳密には料理本ではないけれどもどの料理も作りやすくておいしくて、私はいくつもキッチンのレシピノートに書き写しました。どれも、「食材」をどうしたら活かせるか、こんな使い方もあるよ、という視点で提案されていて、ありふれたテーブルコショーやザーサイ、紹興酒などが、こうもおいしく使えるのか〜と、小さな発見に満ちています。

近所のスーパーで買える物から、輸入物の高級食材までいろいろ、ぜひひとつずつ作って試してみて下さい。

 

(2015.10.07)

6『ガラクタ捨てれば自分が見えるー風水整理術入門ー』カレン・キングストン

スピリチュアル(もはや死語?)系と思って敬遠することなかれ、スピリチュアルな部分を全て差し引いても十分に得るものがある、そんな本です。

著者はイギリス人、風水を活用した建物のエネルギー浄化作用(スペース・クリアリング)の先駆者として知られ、本書も世界的ベストセラー。日本においても15年以上売れ続けており、刷を重ねてとうとう2013年に新版が出ました。

私がこの本を知ったのは服部みれい『SELF CLEANING BOOK あたらしい自分になる本』においてで、「この本を読むと自然と部屋を片づけたくなり、大量のごみを捨てた、そしたら大量のお通じが!」という旨の記述を読み、妙な感銘を受け、そこまで言うなら・・・と、ふだんなら絶対に手に取らないであろうちょっと古めかしいイラストの、ちょっとはずかしいようなタイトルのこの本を購入し、読んでみました。

結果、古本で見つけては買い、片づけで困っている友人がいたら、「風水や、おまじないのような手順のところは飛ばしていいから、読んでみてね」と渡すほど私には楽しい本でした。


本書では

・あなたが使わないもの、好きではないもの

・整理されていない、乱雑なもの

・狭いスペースに無理に押しこまれたもの

・未完成のもの、全て

を「ガラクタ」と呼び、それを丁寧かつユーモアたっぷりに解説。このガラクタの存在は、あるだけで気づかぬうちにストレスのもととなっていて、その保管にはお金もかかっているし、さまざまな妨げとなっている。その例を自分や知人、顧客の事例をあげ、優しく、面白く、いかにガラクタを片づけることが大切かを説きます。そして話は体や人間関係、魂の浄化にまで及びます。このユーモアが、本書の肝。

「倉庫に長いあいだものを放っておくと、そのうち露、ネズミ、湿気、カビなど自然の救世主が、それを捨てざるを得ないような状況に追いこんでくれることでしょう」など、そうそう、とついうなずいてしまう、気さくさ、そして全体を貫くポジティブさ。ちょっと片づけてみようかな、とやる気にさせてくれます。また、家族に物を処分して欲しいなら、まず自分が物を処分しましょう、そうすると、家族も不思議と片づけたくなって、処分してくれます、とのこと。まずは自分から、の姿勢が、ごもっとも。


自分の肉体すら借り物、持っている物も自分の物のようだけれど、本当の意味で所有することはできない、だから時期が来たら手放しましょう、という考えも、仏教観に慣れ親しんだ日本の読者には理解できるのではないでしょうか(実践するかはまた別の問題ですが)。


冒頭の服部さんの本もこの本も、好き嫌いがとても分かれる気がしますが、要は、自分に必要なエッセンスを本から読み取って、咀嚼して、自分の暮らしに活かせるところは活かしてみる、世の中にはいろんな人がいるなあ、自分はこうしてみようかなあ、と考える材料の一つとして読んでみたらよいのではないでしょうか。傾倒しすぎたり、なにかの主義に凝り固まって視野を狭くしないためにも、えいっと手に取ってみると、思わぬ収穫があるかもしれません。

そこまで身構えなくても、単純に面白く読める一冊です。


続編の『ガラクタ捨てれば未来がひらける』は、このスペース・クリアリングの具体的な方法など、ややスピリチュアル寄りで、本書と重複するエピソードもありますが、片づけるヒントを拾おうと思えばそこかしこに書かれていますので、ご参考までに。



(2015.09.16)

5 『暮らしのおへそ』vol.20

『私のカントリー別冊』として発行されている『暮らしのおへそ』は今号で20冊目、10年目を迎えるそうです。

「その人だけがもつ習慣、それを、この本では「暮らしのおへそ」と呼びたいと思います。」と本にあるとおり、あらゆる人の暮らしにまつわる習慣や心がけを「おへそ」と名付け、紹介しています。


20号までのその顔ぶれを見ると、巻頭を飾る女優さんをはじめ、素敵な暮らしぶりをほうぼうで紹介されているあの人やこの人もいれば、この号のように一般の会社員の方もいます。

雑誌という体裁ですがカバーもついて、ゆったりとした紙面で、ちょっとひといきつく時にひらくのにぴったり。また、それぞれの人の暮らしぶりの紹介はもちろん、創刊号から続いている「バッグの中身」は、登場する人たちのかばんの中身を見せてもらえる楽しいページ。お財布やかばん、小物のメーカーまでおしげなく書いてあるのが、その人とこの本との信頼関係をあらわしているように思います。


冒頭で、編集を束ねる一田憲子さんが書いているように、この本を読んで、自分がこれまでやったことがないこと、未知のことを毎日の中に取り入れて、自分の習慣と反応させてみると、思いがけずたのしい変化が起きるかも。そういう練習帳としてほしい、という素敵なスタンスが、10年愛され続けるこのシリーズの「おへそ」なのかもしれません。


20号の表紙は東京・マッターホーンのショートケーキ。このケーキの写真を見ているだけで、その実直な美しさに、幸せな気分になります。



(2015.09.02)

3 『天才たちの日課』メイソン・カリー / 4『文人悪食』『文人暴食』嵐山光三郎

夏休み特別号ということで、2冊ご紹介いたします。


この季節は、夏の休暇や日の長さの助けを借りて、ちょっと生活スタイルやリズムを見直したり、工夫すると楽しい頃ですね。そんなとき参考になるのが、「他の人はどうやって一日をすごしているのか」「どんなところに暮らしの楽しみを見いだしているのか」についてまとめた書物でしょう。前回取り上げた暮しの手帖別冊はその一例と言えますが、もっと古今東西のいろいろな例を知りたくなったならまず『天才たちの日課』を。この本は161人の「天才」(原題は「DAILY RITUALS : How Artists Work」なので、クリエイティブな著名人と考えていただければよいのかと思いますが)たちの毎日の習慣について調べ、ブログに掲載していた著者の記事がもととなっています。作家や作曲家、哲学者、映画監督、評論家・・・世界中の著名人たちが毎日ルーティンとして行っていた(いる)ことをそれぞれ簡潔にまとめています。日本人では村上春樹氏が取り上げられています。各人あたりの分量にはばらつきがあり、もっとボリュームが欲しい項目も多いのですが、たくさんの人の習慣をこれだけまとめてくれてありがとう、とひとまずお礼を言いたい本ではあります。この本をきっかけに興味を持った著名人について自分で調べたり、研究するのも楽しいと思います。


この本に「もっとボリュームを・・・」なんて言ってしまうのは、次にご紹介する『文人悪食』を知っているせいかもしれません。

『文人悪食』は数ある嵐山光三郎氏の著作の中で最も好きな一冊で、近代の文人たちの食癖について詳細でありながら簡潔に、また面白くまとめた本です。文庫で約550ページ、37人の文士の食にまつわるエピソードがつぎつぎに繰り出され、作品が引用され、これを読んだだけで作家の人となりから作品世界までいっぺんにわかった気にすらさせられます。食は暮しの根幹、いえ、ときに人生すら表してしまうようです。


この一冊ではまだ空腹という方、ご安心下さい。続編の『文人暴食』もございます。



(2015.08.05)※次回は9月に更新します


2 『わたしの暮らしのヒント集』『続・暮らしのヒント集』『暮らしのヒント集3』

図書館司書の資格をお持ちの方なら、このタイトルの変遷を見てどう「記述」したものか、つい考えてしまいそうな3冊を、今回は取り上げたいと思います。


これらは雑誌「暮しの手帖」の別冊として企画されたもので、30代から世代ごとに、あの人やこの人の暮らしぶりを紹介しています。

料理家、作家、デザイナー、医師、染織家、スタイリスト、建築家・・・それぞれ、朝食の風景にはじまり、1日のすごしかたや、日々の暮らしで大切にしていること、仕事の様子などが美しい写真とともに語られます。また、途中で「食卓のヒント いつものうちの味、おすすめのひと皿」として、登場する方々がそれぞれよく作るという料理のレシピも挿入されています。


室内の様子の写真からインスピレーションを受けるもよし、気になるあの人の一日や信条を知って理解を深めるもよし、料理を作ってみたり、紹介されている本を読んでみたりするもよし。

時折本棚から手に取って、眺め、暮らしにちょっとした風を吹き込むのに役立ってくれる3冊です。


そして、この3冊をめくっていると、「暮らし」というのは、食べることと、住むこと、着ることでできていて、だれ一人として同じものはないのだなあという、あたりまえだけど忘れがちなことに、きっと思い至ることでしょう。


続刊が出たらいいのにと、ひそかに待っているのですが。


(2015.07.15)



1 『服を買うなら、捨てなさい』 地曳いく子

ワードローブのつくりかたに関する本というのは

・自分の本当に気に入るものだけでワードローブをつくりましょう

・必要なアイテムはこれとこれを、このくらいの数

・これがあると着回しに便利です

というようなことのバリエーションであって、筆者の好みや経験でその中身がかわってくるものの、

結局自分の問題を根本的に解決する手助けをしてくれる本はあまり無いように思います。


本書でも、上記のような記述はありますが、その前提が類書とは一線を画しています。

本書は、長年スタイリストとして第一線で活躍してきた著者が、気取らずに、じつに実践的にどうやって服を選び、ワードローブをつくっていけばいいかを指南した本です。タイトルこそ近年のhow to本にありきたりな過激な命令調ですが、しかしながら通読すると、内容をよく表していることもわかります。


著者はまず、「つい混ぜてしまうイマイチな服」こそ、おしゃれ度を大きく下げている犯人とし、その「つい混ぜてしまう」原因として、「バリエーションの呪い」(男性なら、毎日同じスーツでも誰も何とも思わないのに、なぜか女子だけが、極力同じ格好をしないように、毎朝、鏡の前で多大な苦労を強いられている。その結果、毎日違う格好をするために微妙な服をワードローブに混ぜてしまう)にかかっているからだと指摘します。また、「ダサいの印象はおしゃれの印象の100倍強い」、たった一度ダサい格好をしていたり変な物を持っているところを見られたら最後、その後いくらおしゃれな服を着ても「本当はあの人ダサいんでしょ」と思われてしまう、と分析。

つまり、「服を増やすとおしゃれ度は下がる」→手持ち服を減らせば平均値が上がる、としています。マイナスになる物を手元から全てなくせば、プラスの物だけが残り、平均値は上がる。この論理はとっても明快です。

 

また、あまり似合わないと自覚しているアイテム(例えばスカートとか)は、着る必要がない、ともバッサリ。スポーツなら得意種目で勝負するのが普通なのに、ファッションではテニス部なのにバスケットボールの試合にも出ようとしてしまう、それっておかしいでしょう?というような具体的な例が大変わかりやすく次々に示されます。読む楽しみが無くなるので紹介するのはこのくらいにしておきますが、要するに

「服を減らすためには、1いらないものは捨てる、2どうでもいいものを買わない」

がその原則と言えます。


雑誌というフィールドで活躍する著者ならではの、雑誌のようなキャッチーな言葉遣いが気になる部分もありますが、

「少なくとも今よりおしゃれになれないなら、新しく服を買う必要はありません」

「福袋はゴミ袋」

「だいたい、ゴミだって、今後いつまでただで出せるかわからないではないですか!」

など、思わず同意したくなる名言も。


「おしゃれな人」と、「おしゃれが好きな人、おしゃれにお金を使うのが好きな人」は違う、という指摘の「おしゃれ」の部分を、「本」や「CD」や「文房具」や「キッチン用品」・・・様々なものに当てはめてみると、クローゼットだけでなく家中片づけたくなることでしょう。


「今すぐ必要な服、明日にでも着て行きたいと思う服なら買ってOK。明日ではないなら、せめて1週間以内に着る服を買って下さい。でも、それ以上先、1カ月後に着ようなどというのはダメです。(中略)1週間、1カ月と時が経てば、流行も、自分自身さえも変わるもの。そのとき、1カ月後に着ようと思って買った服は、すでに「1カ月前の気分の服」。過去の気持ちの服になってしまっているのです。」


この文章の「服」を、「本」「特売品」「調味料」などにかえてみてもいいかもしれません。


人の持つ時間は有限です。一つのものを使うことができる時間も、機会も、考えてみれば、数えられるほどしかありません。服と本では、その性質は違いますが、自分が持っている時間に対して使える量が限られているという点は同じ。棚に入れっぱなしで置いておくより、毎日のように手に取れる、今の自分に必要なものだけを残して、今の自分の気分に合う新しいものを受け入れる物理的・精神的なスペースをつくっておくほうが、風通しの良い暮らしができそうです。


大切なのは、今使うかどうか。とっておくもの、買うものを「ときめくかどうか」みたいなあいまいで如何様にも拡大解釈できる基準ではなく、誰がやっても同じ、具体的なやり方でもって示してくれる。この本こそ広く読まれるべきだと思います。


画期的かつ、服以外にも応用のきく本です。

 

(2015.07.01)