『使ってみたい 武士の日本語』野火迅著・文春文庫

「一つまいろう」

「おごりか?」

「むろん、勘定はおれがもつ」

「それは重畳。ここのところ手もと不如意でな」

頭のなかで言葉を組み合わせるだけで、いくらでも武士と話している気分になる。まさに「使ってみたい」武士の日本語である。これほど題に忠実な中身も珍しい。上記に使った単語は、三つで、「一つまいろう」(まずは一杯)、「重畳」(大変結構)、「手もと不如意」(当座の持ち合わせが……)。

ひとの噂も75日、という言葉があるように、どうも武士や江戸時代の言葉や習慣の端々に、75日を区分にして考える気分があったらしい。たとえば、遊女は職業柄75回まで神仏への誓いを破ることが許されている、とか初物を食べると75日長生きするとか。

それだけではなくて、

中間(ちゅうげん)→契約社員

口入れ→派遣紹介所

平侍→平社員

みたいに、案外、時代はうつりかわっても実態はかわっていなかったりすることが垣間見られたりする。痛快な読める字引。