『ロッパの悲食記』古川緑波著・ちくま文庫

昭和の喜劇王・古川ロッパ(緑波は筆名)の凄絶な食の求道日記。戦前、戦中、戦後、物資の欠乏時にもかかわらず、とにかく食べに食べている。

いきなり、

「昼食、帝国ホテルのグリルへ、久々で行く。註文制となり、前以て申し込んだ。一人前では困るので影武者(?)を一人連れて行き、その分も食う。彼は、目の前へ並んだものを見るだけだ、辛かろうが、許せ」

ではじまる。表向きは食料がないことになっているので、

「国道に近き処にあるヤミ洋食屋へ行く。キン坊という店なれど、表は閉して、カーテンを引き、休業の札を出してあり、裏から入る」

ここから先は、食の裏街道まっしぐら。日に日に悪くなっていく食事情に、「もう食うまい、寧ろ飢えよう」と思うが、その決意は一行ももたず、「食のために、さまよい出て、横浜へ。紹介を貰ってあり、南京街のK閣というのへ入る。閉め切って食わして呉れるので、暑さ激し。蟹、あわび、そして肉。しまいに炒飯が出る。これが美味し、大いに食う」となる。

本書は、こうした食日記の合間に、エノケン(同時代を並走した喜劇王)、林正之助(吉本の創業者のひとり)、山本嘉次郎(黒澤明の師であり、グルメ王のひとり)、斎藤寅次郎(戦前、戦中の喜劇映画監督、喜劇の王ともいわれた)などロッパならではの交友範囲の広さを見せており、昭和の文化史としての一面も持つ。