2009年

7月

22日

『族長の秋』ガルシア=マルケス著・集英社文庫

極彩色の言葉につむがれた奔流のような物語。「独裁者の牧場」とも呼ばれるラテン・アメリカの特殊な政治状況からうまれた、特異な権力者を主人公にしたマルケス特有の幻想譚。

通常の章立てとは関係なく、段落や改行はなく、中間にはさまる空白の頁が実質上、六つの章に本書をわけている。四章をのぞく、すべてが本書の主人公である、「百歳まで背が伸び、百五十歳のときに歯の生え変わりがあったといううわさ」のある容貌怪異な大統領の死体の発見からはじまっている。

物語の語り手が、章ごとにかわり、そのたびに反復される物語が微妙にずれ、あるいは拡大され、ある物語を流布させていく過程を作中の物語をあたかも追体験させるように、ふしぎなリズムをきざんでゆく。

子ども二千人の命とひきかえに考案された宝くじを当てるための確実な方法や、唯一無二の懐刀の陸軍中将を香辛料をたっぷりときかせてローストしたり、通りを歩いていて目につく女を陵辱したり、おもいつくかぎりの奇行と悪業のかぎりをつくしながら、自分ほど民衆に愛されているものはいないというゆるぎない確信を持ちつづけたゆっくりと沈みゆく水死人の眠りのような大統領の一生をえがく。