『シャングリラ』池上永一著・角川書店

爽快な読後感。

冲方 丁(うぶかた とう)のマルドゥック・シリーズ(『マルドゥック・スクランブル』、『マルドゥック・ヴェロシティ』ともにハヤカワ文庫)を彷彿とさせる壮大なSF小説。

舞台は東京で、分厚い雨雲ごと落ちてくるようなスコールに苦しめられる、100年後ぐらいの世界。地上は遺伝子改良された森にのみこまれ、地上を追われた人間はまるでバベルの塔のような、空中積層都市「アトラス」を築きあげ、そこに逃げこむように暮らしている。

ただし、「アトラス」で暮らせるのは選ばれたエリートたちだけで、数十万人の難民は、獰猛な鬱蒼としげった森のなかで、おびえながら暮らしている。そうした不平等な社会を打倒すべく、「メタル・エイジ」というゲリラが組織され、数十年にわたる戦いの火蓋がきっておとされる。

女子高生にして、ゲリラの総統に着任した選ばれた少女・北条國子、六本木でニューハーフパブを経営していた元・五輪候補の格闘家・モモコ、嘘をつくものを無作為に殺す呪力をもつ美邦、そのパブで踊っていた百貫デブのミーコ、プログラミングとマーケティングの天才小学生・カリン、清心な軍人・草薙、謎のアルメニア系アメリカ人・タルシャンなど、一癖もふた癖もある人間が「アトラス」をめぐって、いりみだれていく。

また日本書紀やギリシア神話の世界に、なつかしのリチャード・ドーキンスの遺伝子ワールドなど、多少ステレオタイプなところが目につくけれど、カーボンが世界経済の要として描き、経済炭素という概念で世界を新しく描きなおす筆力は、上下二段、592頁のボリュームにふさわしい。

長編は持ち運びに適さないのが難だが、読み終えたときの読後感がたまらない。よし。