『対論』五木寛之・野坂昭如著・講談社文庫

学生時代に『風の王国』(新潮社)という小説を読んで、五木寛之という作家を知った。五木寛之は直木賞作家で、仏教について一家言あり、メルセデス・ベンツをこよなく愛し、髪の毛を一年間に二度しか洗わない、というどうでもいいトリビアルな豆知識を塗り替えてあまりある、濃厚な小説だった。

「歩くこと」を血湧き肉踊るエンターテイメント小説にする、というのは、おそらく前人未到の境地で、五木寛之をしてしか辿りつけないサミットのひとつだと思う。この一作で、色あせてみえた五木寛之という活字が、浮上して手にとって読むようになりました。

本書は、盟友・野坂昭如との対談集で、1969年に収録されている。作家・小林信彦が評論家・中原弓彦(作家としてデビューする前につかっていたペンネームのひとつ)と記載されていて、時代を感じさせる。書誌情報が欠落しているので、ちょっといい加減なつくりだと思うが、外地引揚派の五木と焼跡闇市派の野坂の対談としてはちょうどいいのかもしれない。

五木 「何について話そうか。」

野坂 「何でもいいよ。」

常にノープランで、青春とはオナニーだ、という豪快な理論を自作『青春の門』をひもときながら本気で話あったり、セーラー服で勃つかどうか確認しあったり、和田誠と横尾忠則がときどき顔を出しながら、一言たりとも言葉を発さずに終わるという、エキセントリックな展開に笑ってしまった。

しかしながら、一冊まるまま、二人の直木賞作家が、文学について何も語ることがないぐらいに仲がいいとは、この本を読むまで知らなかった。