『ニール・サイモン戯曲集 Ⅳ』早川書房

「思い出のブライトン・ビーチ」では作家志望の少年、日本と独逸との戦争のための徴兵で軍事基地で過ごす閉塞した空間を描いた「ビロクシー・ブルース」、ラジオのコント台本で、念願の作家への道を歩みだした「ブロードウェイ・バウンド」。

本書は、『第二章』以来語られてこなかったニール・サイモンの半自伝作品、三作をおさめ、この三作は、頭文字をとってBB三部作ともいわれる。

この三作を貫通して登場するのは、ニール・サイモンとおぼしき、常に「回想録」を書き続けているユジーン。”最低の状況における人間の尊厳”というテーマをつきつめていくその姿勢は、

 

「……軍隊にいる時、教わったもんです。戦闘の時、助けてくれと泣き叫ぶやつは放っておけ……何の音も立てないやつのそばに行ってやれ。そいつこそ本当に重傷なんだ……」(「ブロードウェイ・バウンド」)

 

という台詞だけではなくて、一作、一作、作を重ねるごとに抜き身のような鋭さを放ち、いつものようにジョークに頼らず、ラブロマンスも書かず、実在の映画スター、ジョージ・ラフトとまるで映画みたいな一日を過ごした母、ケートに思い出話をせがんだユジーンが、その一日の出来のよさに、思わずこうもらすと、

 

ユジーン (中略)映画はハッピーエンドだよ。

ケート ……映画はまだ終わってないわ。(「ブロードウェイ・バウンド」)

 

と、家庭のなかの終わりのない不和を予見する台詞をこぼして、ウェルメイドなハッピーエンドをも、正面から否定する、作品そのものに現れている。

 

一冊の本としては、まさに完璧ともいえる本書は、しかしながら、三巻とまったくおなじ、「思い出のブライトン・ビーチ」をそのまま収録するという厚顔無恥な編集方法によって、戯曲集として完全に失敗している。誤植すらせずに、解説すら同じ文章を収録する編集というのは、編集とはいわない。良識を疑う。