河童の河流れ 埼玉ワンダーランド part2

岩だたみで知られる、埼玉の奥地、長瀞のコテージに車をとめると、荷物を放り出して、川遊びにいく。長瀞に流れる川は、松尾芭蕉が奥の細道へと旅立ったことで知られる荒川の上流で、一枚の貝殻の上の表面を歩いているような、断裂した地層の起伏が美しい、長瀞の岩だたみの中を静かに流れている。幻想的で、歩いているだけで、映画になりそうだった。

長瀞の語源は、瀞(トロ)すなわち、湖面の凪のような流れがおだやかな部分が長いレンジであるということに由来する。故に、水面がコバルトブルーみたいな穏やかな青をしていて、見飽きない。

早速、エルブレスでかった海パンにはきかえて、勇躍、川の中に飛び込むと、川の中腹には、活きのいい激流があって、ものの見事に流されてしまう。僕が泳げないことを知悉している伊藤先生は、僕が川の中ではしゃいでいるのではなく、溺れているのだと気がついて、岩の上に引き上げてくれる。

岩の上であえぐ僕を尻目に、伊藤は、少し泳いでくる、と対岸まで泳ぐと、万歳をして、大きく手を振っている。僕も手を挙げて、伊藤にこたえると、後ろで、PTAの団体旅行の一群のような、ちょっとみたところでは、一体何の集まりかわからない人たちに出くわす。

彼らは、岩の上から飛び込みの練習をしているらしく、ウェットスーツを着込んだ小学生低学年の長髪の少年がなかなか飛び込めないらしい。崖の下の川のなかには、ゴーグルをつけて、ウェットスーツを着た大人二人が立ち泳ぎをしながら、少年を励まし続けている。暇だったので、少年に話しかけると、こっちを向いて、ぎこちなく笑う。

ゴーグルをつけたおじさんに、川の底まで何メートルあるんですか、とたずねると、4メートルという。青くにごっていて、川底は見えない。

ざぶん、と音がして、伊藤が対岸から泳ぎ始める。一向に飛び込む気配のしない少年を尻目に、みな伊藤の泳ぎを見つめている。川の中腹まで勢いよく泳いできた伊藤は、一転して、そこからすすまなくなる。勢い良くクロールしているにもかかわらず、川の流れに押し戻されて、しまいにはどんどん流されていく。

「さようなら」

心の中で一瞬よぎった思いをよそに、少年用の救助用浮き輪が川の中腹に投げ込まれる。

「大丈夫か!」

ウェットスーツの二人が声をかける。伊藤は当然のごとく話せない。必死に泳いでいる。

「彼の名前は?」

ギャラリーからたずねられるままに、こたえると、みんなで大合唱がはじまる。

「伊藤くん、頑張って、もう少しだから。浮き輪、つかんでえ!」

伊藤がなんとか浮き輪をつかむと、屈強な男二人に引き寄せられて、あたしの隣に打ち上げられる。

「危なかったなあ」

「うん」

「すこし、歩くか」

「おお」

ギャラリーに三顧の礼をして、立ち去る。

K先生とアキコ氏は、川べりで麦酒をおいしそうに呑んでいて、僕達が頭の上までびしょびしょになっているのを、たのしそうに笑う。コートジボアールのような夕日が沈む。

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コメント: 2
  • #1

    aki (木曜日, 10 9月 2009 22:19)

    伊藤くん、結構大変やったんやね、これを読んで
    初めてわかりました(笑)
    K先生とおいしく麦酒をいただいている岩の向こう側でこんな救出劇があったとは。
    いやぁ自然っておそろしい。

    皆様助けてくれてありがとう。

  • #2

    千三屋 (金曜日, 11 9月 2009 01:06)

    大変でした
    というかふつうに怖かった
    皆様に大感謝