埼玉ワンダーワールド 番外編 英国人ビルのnew proverb

マジシャンの娘ことアキコ氏は、司馬遼太郎の後輩にあたる大阪外大出の才媛で、イギリスに二年、ニュージーランドに一年間留学していた。要するに英語がペラペラの生粋の大阪人や、ということがいいたいのだが、その経験だけではあきたらず、いまだに向学心に燃えており、日に日に、語学力が落ちていくのが許せないという。レベルを落とさないように、仕事の合間をぬって、マンツーマンで英会話を磨いている。

長瀞からそのまま帰ってきて、そのまま解散というわけにもいかない我々は、当然のごとく、伊藤家の麦酒やら焼酎やら梅酒やら泡盛やらに手を出して、つまみはまだか、とテーブルを叩いている。生憎、その日は、アキコ氏のレッスン日で、これから授業がある。しかしながら、宴会はまだ始まったばかりである。不穏な空気を察したのか、アキコ氏は宴会を続けながら、授業を受けることにした。つまり、英会話の先生、ビルを呼ぶことにした。

宴会に。

ちなみに、ビルは、日本語が1パーセントしか話せない。僕の語学力は六歳児に満たない。その二人が出会ったらどうなるか、ということはここでは詳らかにしないが、僕はかねてから、英国人にあったら訊き続けていることがある。

それは、ユーモアとジョークとギャグの言葉の違いについてで、僕は和製英語に関しては、字引の言葉を信用していない。その言葉をどう思って、どう使っているのかは、母語にあてはめて考えて見ればおのずから明瞭で、何がしかの思い入れが言葉にはあるはずだから。

ビルに、その言葉の用例をたずねると、ユーモアとは、ユアフィーリングで、ジョークは、笑わせるためのあなたの方法(大意)。ギャグは、それほどいい言葉ではないという。訊きたいことをききおえると、あとは身の上話で、なぜ、日本に来たのか、とたずねると、妻を愛しているから。

日本語が話せなくて怖くないのか、ときくと、怖い。

特に、買い物をしようとしても、英語で話ができないから、思いつきで買うしかない。日本語は、語学学校に通って勉強しているが、難しくて覚えていることができない。しかしながら、

Love conquer all.

what?

Love conquer all.

愛はすべてに打ち克つ、とでもいえばいいのだろうか。愛こそすべてか。

ちなみに、折角日本語を勉強しているのであれば、我々も微力ながら、力になろうじゃないか、と身を乗り出して約半時。ビルのメモ用紙には、「焼きうどん」「親鸞」「虹鱒」「おおきに(ありがとう)」なるローマ字が記されていた……。