『他諺の空似 ことわざ人類学』米原万里著・光文社

たとえば、やぶ蛇(藪をつついて蛇を出す)という言葉がある。余計なことをして、無用の災難をかぶることで、これは日本だけの考えではない、らしい。というのも、

 

去っていく虎に小石を投げる→インド

喧嘩の仲裁をして殴られる→アラブ

ハイエナの相撲を羊は見に行かない→セネガル

寝ている犬はそのままにしておけ→イギリス

 

……などなど、いちいち書き写すのにあきれるぐらい、この後も、世界五大陸に渡る類諺が延々紹介されていく。つまり、人間の営為(ふふふ)というのは、実は人種をこえており、世界はことわざで連帯している。馬鹿げた言葉を使いましたが、本書は、ときに辛辣な人間の人間に対する視線をユーモアあふれる筆致で描いている。

しかしながら、余程、現代社会に腹を据えかねたのか、連載の趣旨から、毎度のごとくに脱線して、小泉・元総理とブッシュ・ジュニアへの熱いエールを忘れない。少し長くなるが、

「二○代と三○代に飲酒運転で逮捕歴があり(妻のローラも十七歳のとき飲酒運転で級友をひき殺している)、名門エール大には金と権力を持つパパの力で潜り込み、勉強せずに遊び惚けていてコカイン吸引で有罪判決を受けたというどら息子。(中略)テキサス州知事になってからも、知事としての実務に無関心で、製作の勉強は嫌いだと公言し、「これほどまでに政策や国家運営の業務にうとい人物が、州知事はもとより、なぜ、よりによって大統領の座に就きたいと思っているのか」と周囲に不思議がられている。「なぜ読み書きしゃべる能力が小学生レベルの、知性も才能も勤勉も努力も欠如した男を」と。」

と手厳しい。

諺よりも、気炎をあげている。

たしかにブッシュ・元大統領には失言が多く(以下『フー・アー・ユー?』扶桑社より)、そんじょそこらのコメディアンでは歯が立たない。

(イラクに対して)「あいつらが武装解除しないなら、我々のほうが武装解除する!」や、(ブラジル大統領に)「ブラジルにも黒人がいるのですか?」などときいてみたり、「私の弟であるジェブは、偉大なるテキサス州知事なんです」と間違えてみせたりする(当時はフロリダ州知事)。

極めつけは、「私の知能が足りないと思っている人間は、その事実を甘くみている」で、2003年には、テレビでイラクのフセイン大統領に最後通告を行ったあと、お菓子のプレレッツェルを喉につまらせて気絶したりと、目が離せない。

しかしながら、この話が笑い話で終わらないのは、巻頭に登場する森・元総理の名言で、初めて会ったクリントン大統領にむかって、「ハウ・アー・ユー」と間違えて「フー・アー・ユー?」と言う。

しかし、哀しいかな。

クリントン大統領が、機転をきかして、「ヒラリーの夫です」と答えて、笑いでフォローしたにもかかわらず、「ミー・トゥー」と答えて、まわりを凍りつかせたとか。

目糞鼻くそを笑うじゃないけれど、他山の石とは思えない、言葉の話。

米原万里には、エッセイだけではなくて、もっと小説を書いて欲しかったけれど、2006年5月25日、がんのため鎌倉の自宅にて死去。

戒名は「浄慈院露香妙薫大姉」。

本書は遺作。

絶筆はいつかまた別の機会に。