『文楽でございます』武井加津子著・ゴマブックス

文楽の伴侶、武井加津子の聞き書き。行間が広すぎて、30分ももたない。

いささか平凡すぎる意見ですが、この手の本の面白いところは、武井加津子を通して、もうひとりの桂文楽を知ることができること。

大晦日は、室町の砂場に年越し蕎麦をたのみ、日本橋のうさぎやでは、有名などら焼きではなくて、茶通(さつう)や唐饅頭(とうまんじゅう)みたいな焼き菓子を好んで食べ、洋菓子は「ルコント」。完全にOL的な読み方ですが、お茶請けにはまず間違いない。これは。

「福利厚生なんて言葉は、噺家の辞書にはありません」みたいな、章末の文楽の一言コメントも愉しく、味わいのある東京散歩地図みたいな一冊。

本書の題は、おかみさんが電話にいつも、「文楽でございます」といって出ることに由来している。それだけでなく、自己紹介のときも、「文楽の家内でございます」とはいわず、「文楽でございます」と一貫している。

だって、それで「相手も全部わかりますしね」という、面倒くさがりかたが、可憐なり。