きのう、御茶ノ水で、

武田先生と「アミ」で飲む。無論、クラブではない。御茶ノ水の学生にはランチが人気の居酒屋。路地の看板によると、創立50周年を迎えたらしい。なんの関りもないが、めでたい。しかし、年々、客が減っていっている模様。斜陽といったら失礼だけれど、少し閑散としてきたか。値段も少し安くなっている。

「となりにね、ライバル店ができたんですよ」とは武田先生。

先生愛用のジェット・ストリームにはじまる、三菱、パイロットのインクはヨーロッパを席捲するか、などを軸に先生のロシア時代の文房具談義をしていると、颯爽と影山くんが現れる。5年ぶりか。

「少しやせたんじゃないの?」ときくと、

「みんなにそういわれるんだけど、そうじゃないんだよ」と白い歯で笑う。相不変、精悍な面立ちである。大宅壮一ではないけれど、やはり、男の顔は履歴書なのか。影山くんは、夢幻舞台という劇団の二期生であり、武田先生はその顧問。昔話に花が咲き、夢幻舞台は、勝手に頭の中で消滅させてしまっていたけれど、まだ続いていて、なんと十周年を迎えた由。10年といわれると、なんというか、ある程度の長さを感じてしまう。

先生と酔っ払うと、大体伺うのは、演劇を30歳こえてまで続けられたら一人前だという話。学生時代に、劇団、コント、文学でもなんでも、賞をもらって活躍したところで、30を超えるころに、会いに来ると、どこそこに就職しました、という報告が多いらしい。

それは、間違ったことではないし、負けたとか、折れたとか、そういうことでもないと思うが、やっぱり、そこはかとなく、残念に思うところもあるのだろうか。放送作家の仕事をしながらも、演劇を続けるフルタジュン氏を密かに応援しているらしい。

「案内をくれるんだけれども、いつも公演期間が短いでしょ? 観にいけないんだよ」と笑う。

そういえば、影山くんと話という話をしたのも、フルタ丸の公演の後片付けを手伝っていたおり、アート・シアターの舞台の暗幕を、二人で一緒に外していたときだった。影山くんのジーンズのポケットに、サン・テグジュペリの『夜間飛行』か、『人間の土地』だかが入っていて、声をかけた。『人間の土地』の「本当の贅沢とは、人間関係の贅沢だ」という一節を教えてくれたのは、影山くんだった。お金でも、食べ物でも、装飾品でも、ない、のである。これを目の前で言われたら、殺し文句である。

先生とは、年に数度、東京散歩をする。東京散歩、というよりかは、実は墓地探索なのだけれど、墓地を丹念に歩き続ける先生の話が無類に面白い。

「じゃ、今度は、西浅草でね」といって、手をふる。