『あと千回の晩飯』山田風太郎著・朝日文庫

『あと千回の晩飯』山田風太郎著・朝日文庫

七十二歳になった、山田風太郎が、漠然と、あと晩飯を食うのも千回くらいだろうとの思いから、かきはじめたエッセイ集。

人間の定年は、65歳だとして、その年齢に達した死の希望者は、国立往生院とでも呼ぶべき施設に入れて、荘厳なセレモニーのうちに安楽死させてはどうかと書いてみたり、古今亭志ん生、志賀直哉、武者小路実篤のことばを引用して、死に様をユーモアたっぷりに描いて見たり、鴎外の『雁』を「サバのミソ煮のためにヒロインの恋がむなしくなるという話」ときってすてたり、「終日座睡的な日常」にありながら、それでもときどき目をあけて日本の行く末を心配したり、地球の滅亡する日を空想して本気で心配したりするのが可笑しい。

ひょっとして、ぼけてるんじゃないかと思わせながら、

 

「(略)白内障も悪いことばかりではない。眼は、風景を見るにはよく見えるほうがいいが、人類を見るには、少しかすんでいたほうがいい」

 

など、いきなり、はっとさせられる。

鯛焼きみたいに頭から尻尾の先までおいしい一冊。