『宝石の裏側』内藤幹弘著・新潮新書

『宝石の裏側』内藤幹弘著・新潮新書

ティファニーのオープンハートというペンダントネックレスがある。店頭で買えば数万円。しかし、その原価はというと……。なんと、数十円! なのである。加工料を含めても、せいぜい300円あればつくれてしまう、という。

婚活中の喪男に宝飾品をみつがせたところで、原価がこうでは質屋がなんというかは目に見えている。紳士淑女におかれましては、何卒ご用心を。

しかし、本当に恐ろしいのは、ブランドものに限らず、宝石の、「ほとんどすべてが「整形美人」」である、という著者の指摘である。

ダイヤモンドは放射線照射で色を透明にし、真珠の大部分は調色がなされ、ルビーの赤は加熱処理。エメラルドにいたってはサラダ油で傷を隠し……、といった具合に枚挙にいとまがない。

結婚指輪は給料の3倍で、というのは戦後につくられた神話である。気分、といってもいいのかもしれない。もともと自然材料なのだから、値段はあってなきがごとし。これをまことしやかに高級品として巷に流布、喧伝したのは、まさにデ・ビアスの勝利というほかはない。

では、どうやって選べばいいか。

つまり、そういうことを織り込み済みで、気に入ったものを選べばいいのではないのか。孫引きで恐縮だけれども、世界のクロサワを袖にした女優・高峰秀子に「私の結婚指輪」というエッセイがある。

「私は結婚指輪だけは夫に買ってほしいと思った。当時、安月給だった夫は何処で工面したか、ケシ粒ほどのダイヤモンドが幾つか並んだ結婚指輪を買ってくれた。それはささやかな物であったが、私はかえって、分不相応に背伸びしない彼の性格が分かって嬉しかった。結婚してから十九年の月日がたって、夫はその間にダイヤモンドをケシ粒から米粒に、米粒から小豆粒の大きさにしてくれた。」

大きさではないといいたい。

物語なのだと。