2009年

12月

21日

『本の運命』井上ひさし著・文藝春秋

朝日新聞の記事で、井上ひさしが肺がんの闘病中であることを知る。全集を読む楽しさを教えてくれたのは、他でもない井上ひさしだった。なんとなくそわそわして、本棚から『本の運命』をひきぬいて読む。

井上ひさしが、一番本を買い込んでいたのは、朝日新聞の文芸時評をやっていたころで、小説と評論と漫画を月に、四、五百万円買いこんでいたらしい。いまでも五十万円近くは買って読むらしいから、すごい。こういう人の蔵書というのは、言葉の正しい意味での、家を壊す。床がかしぐではすまない。

ある日、アメリカのアイオワ州立大学に留学している学生から、手紙が届いた。

「井上さん所蔵の夏目漱石全集が図書館にあります」と。その当時、井上ひさしは、アメリカにいったことがなかったから、なんとまあ、本のほうが、本人より先にアメリカの地を踏んでいたりする。

遊女のことを、「煙草を勧める女」と書き、寝小便を「毎晩よく眠って居るのを呼び起さねば成らない習慣」と、わざわざ回りくどく書く癖がある自然主義の大巨頭、藤村を面白がったり、3万冊ぐらいだろうと思っていた蔵書が、なんと、13万冊であったと判明したのは、奇しくも離婚のおかげ(?)だった、と笑い飛ばす。

「人間たちは自分の勝手な都合で別れ別れになっていきますが、最後に、本が残る。本には足がないものですから、自分では動けない。人間たちはすっかり逆上してますから、本のことなど誰もかまわない。(中略)僕と前のかみさんが、どうもうまくいってないらしいという噂が流れた瞬間に、古本屋さんがやってきたんです(笑)」

結局、本は古本屋さんにはいかず、めぐりめぐって故郷である山形県川西町の農村生活改善センターにおさまり、遅筆堂文庫開館の運びとなる。まさに本の運命。

井上ひさしは、闘病中の現在も、健筆をふるわれている由、是非とも次作を読ませてください。