books335『ホルモン力が人生を変える』堀江重郎著・小学館101新書

人生を「男性ホルモン」で読み解いた、きわめて刺激的な一冊。

およそ耳になじみのないこの言葉は、1931年に、ブーテナント博士が発見した男性ホルモンの一部、アンドロステロンに端を発する。博士は、この発見をもとに、1939年にノーベル化学賞を受賞した。 「男性ホルモン」は、=「テストステロン」で、実に多くの驚くべき作用が報告されている。

たとえば、膨大なプレッシャーのもとで働く株式トレーダーのなかでも、特に儲けているトレーダーは、テストステロン値が高いという。

男性ホルモン値が上昇すればするほど、自信と冒険心が増し、勝利の機会を高めていく。俗にいう「ウィナーズ・エフェクト」で、成功が成功を呼ぶ、黄金パターンがうまれる。まさしく、男は褒めて伸ばせの科学である。

逆に、失敗したり、株価が下落しはじめると、副腎皮質ホルモンの一種で、ストレスから分泌されるコーチゾール値が上昇して、疲労がたまり、うつ気味になる。

脳には、扁桃体と呼ばれる部分があり、人生でこれまで経験してきた恐怖や悲しみをストックしている。この扁桃体に作用するのが、男性ホルモンと、ストレスホルモンのコーチゾールなのである。男性ホルモンは、扁桃体にしっかり蓋をするホルモンだが、コーチゾールは反対に蓋をあける。男性ホルモン値が低く、コーチゾールが高いと、典型的なうつのホルモンバランスといえる。 中島らもは、人間の気分は薬物でどうにでもなると喝破し、お茶漬けにできるぐらいの薬と酒を飲み続けた。らもみたいに生きるのは誰にでもできることではないけれど、ある程度、男性ホルモンはコントロールすることができる。

たとえば、スイーツを食べると、セロトニンを高めてくれる。セロトニンは内省を促すホルモンで、座禅やヨガ、気功などで複式呼吸を行ったり、瞑想をしたりすることで、得られたりする。

そもそもホルモン(hormone)とは、ギリシャ語の「ホルマオ(hormao):刺激する」という言葉で、1905年にウィリアム・バイリスとアーネスト・スターリングがセクレチンをホルモンと表現したことにはじまる。  

似たような名前だが、ホルモンとフェロモンは違う。ホルモンが自分の体内で分泌し、他の臓器に作用する物質であるとすれば、フェロモンはファーブル昆虫記で、雌の蛾が雄を惹きつける物質として知られていたように、自分以外の誰かに作用することである。ちなみに、このフェロモンを発見したのも、カールソン博士とブーテナント博士らである。

生物学用語辞典によると、特定の分泌器官から分泌され、血液などで体内を移動して他器官の活性を調整する物質、となる。ホルモンはおよそ、70種類以上あり、体内のさまざまな場所で分泌する。 脳の視床下部から、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が分泌され、それに応じてホルモンの生産工場である脳下垂体から性腺刺激ホルモンの黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)が放出され、LHは精巣でテストステロン分泌をうながし、FSHが精子をつくる。

男性ホルモンの原料はコレステロールで、テストステロンのほかに、ジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステロン、アンドロステンジオンがある。メインはテストステロンで、95パーセントは睾丸、残りは副腎で分泌している。

フーコーによれば、学校と病院と監獄は同じころ社会に形成された。コミュニティからある集団を抽出して、管理する、教育するのが管理社会のはじまりで、つまり現代の社会だが、男性ホルモンと管理社会は相性がわるい。というのも、男性ホルモンの本質のひとつが冒険だからである。

冒険は人類の進化と密接に関係している。両生類から発達した生物は、水のなかで生活していた時代と異なり、水へのアクセスが不定期な陸上で生活するために、尿を濃縮している。両生類はこれができないために、水の周縁でしか生きていけない。は虫類系は、尿を濃くできたから、脱水や乾燥に適応して、陸上でも生きられるようになった。

尿を濃くした結果、自分の存在を尿の臭いでアピールできるようになり、テリトリーを主張するようになっていく。マーキングは犬だけでなく、鼠もする。この行為も男性ホルモンが関係しており、精巣を摘出してしまうと、マーキング行動に興味を示さなくなってしまう。

尿を濃縮するホルモンは、抗利尿ホルモン(パゾプレシン)といい、腎臓の尿細管という細胞に働いて、水を輸送するタンパクに働き、水分を体に戻す、再吸収という働きをする。この結果、体の水分量が維持される。

パゾプレシンは、攻撃性や、規律、階級意識、自己の領域を護る意識とも関っており、生存の難しい世界に縄張り意識をもたらし、生物同士の争いのひきがねをひいた。

このパゾプレシンと男性ホルモンは、連動しており、減少するときは同時になくなる。若いときは夜寝ている間、パゾプレシンが高くなるために、小便で目をさますことはないが、年をとると、二度も三度も夜中にトイレにたつようになる。このパゾプレシンが減ると、縄張り意識も希薄になる。

極端な例だが、イスラムの世界は、気候が厳しく、水が貴重である。ゆえに、パゾプレシンが高く、尿が濃くなり、縄張り意識が強い。自爆テロの遠因にもつながっているのかもしれない。

精神の平穏と、男性ホルモンのためには、水をのみ、腹式呼吸が効く。内省を促したければ、スイーツを補給し、ぼうっとするのもいいのかもしれない。

男性諸君。是非お試しあれ。

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コメント: 3
  • #1

    K.Kageyama (土曜日, 06 2月 2010 09:56)

    これはおもしろい!読みたくなりました。

  • #2

    千三屋 (火曜日, 09 2月 2010 23:49)

    男性ホルモンはね。読むと、本当に面白いんです。はげの研究過程で読み始めたんだけれど、そう単純なことでもないらしいのよ。青土社からでてる、テストステロンの本があって、どのひとも引用してるから、この分野の碩学系かと。書店に注文したので、近日書けるかと思います。それ以外にも結構読んだので、面白いのをまた書きます。お楽しみに!

  • #3

    H.Masuda (木曜日, 21 7月 2011 22:36)

    テストステロンは深いですね。女性のテストステロンも興味あります。面白いレビュー楽しみにしてます!