谷中の花見

日暮里で降りるはずが、生憎の雨と、続く花冷えのおかげで町屋飲みになる。

雨が降っていても桜はきれいに咲いていて、雨に散る桜のなかを歩いていると、案外、晴れた日よりもきれいなのかもしれない。町屋の駅前から団地までの間にちょっとした桜通りがあって、その中を傘をささずに歩く。

 

既に宴会ははじまっていて、五十嵐の落語研究会の同期の渡辺さんと、女の人が二人いた。

二人ともMさんとMさん。

器量好しで、表情があまりにも魅力的だったから、不思議に思って聞いてみると、二人ともばりばりの女優で、そのせいか、気さくで、ぶしつけにも最近出演された芝居のことを色々聞いても面倒くさがらずに、いちいち答えてくださるのが嬉しい。リルケの詩ではないけれども、表情が魅力的というのは実に難しくて、例えば顔を片手で覆っただけで、笑っているのか、怒っているのかわからなくなってしまう。

Mさんは五十嵐と仙川会の友人でもあり、もう既に七年近くの付き合いになるという。

五十嵐くんが主宰していた8ミリオンも観に来てくれたときき、何故か嬉しくなる。

 

映画や演劇の話、というよりかは、五十嵐君のお母さんの話をし、渡辺さんが施設でやっている漫才の話にげたげたと笑い、小川洋子と司馬遼太郎、松本人志の話を聞く。マシコさんの日本酒で完全に酔いつぶれた五十嵐くんを尻目に、Mさんのお姉さんのアパレルの話を伺い、

「鞄と靴さえしっかりしていれば、あとはどうだって、なんとかなる」

というお姉さんの話がまるで『ユルスナールの靴』みたいで、新鮮だった。

 

途中で幡野君が帰ってきて、部屋を変え、「ジェンガ」という積み木で遊び、激辛人生ゲームをやる。一通り遊んだあと、寝る前に、洗い物でもするかと階下におりると、電気がついていて、鞄作家のSさんが、一人でレトルトのご飯と焼いた肉をつまみに、発泡酒とワインを呑んでいたので、手を挙げて

「おお」

というと、明るく笑ってくれる。

まだ呑める? 

とワインをついでくださるので、当然のむ。

ずっとSさんの作っている鞄の話がききたかったので、渡りに舟と、話をしていると、なんとわたしのリクエストした鞄のプロトタイプをわざわざつくってくださるという。

嬉しい。

鞄だけでなく、椅子や、家具にまで話が広がり、ただし、興味は建築にまではないという。

なぜですか、ときくと、自分の興味を一言でいえば、それは「工芸」だからです、という。

工芸ときき、久々に、柳宗悦の話をして興奮したせいか、気がつけば朝陽がさしていた。