『ヘルバウンド・ハート』クライブ・バーカー著・宮脇孝雄訳・集英社文庫

『ヘルバウンド・ハート』クライブ・バーカー著・宮脇孝雄訳・集英社文庫

「ル・マルシャンの箱」という、漆塗りの黒い六面体のパズル・ボックスがあった。このパズルを解くと、たちどころに快楽を極めた歓楽宮への扉がひらけるという。淫魔が巣食う恍惚世界への扉が。

その歓楽宮への地図は、他に何枚かあり、その一枚に神学者の暗号で書かれたヴァチカンの古文書保管庫に納められた図面や、サド公爵がバスティーユの監獄で『ソドムの百二十日』を書くための紙を得るために看守と交換した折紙細工の指南書という体裁をとった地図があった。「ル・マルシャンの箱」もこの地図の一枚で、「歌う鳥」を作ったことで知られる希代の細工師、ル・マルシャンが地図をオルゴールの中に封じ込めた。複雑に入り組んだ仕掛けは、一生いじりつづけてもまず解き明かせないだろうといわれていた。

フランクは、あるきっかけから、このパズルボックスの入り口をつかむと、だしぬけに頭の中から鐘の音のようなものが鳴り響きはじめる。歓喜に打ち震えるフランクの前にあらわれたのは、全身を釘でうちつけた男や、体中をひきさき腐臭をただよわせる女ら、四人の魔道士だった。

四人の魔道士は、呼び出した人間、フランクにたずねた。

お前が求めるものはなんだ、と。

フランクは、快楽とこたえると、魔道士たちは笑って、では快楽を与えてやろう、といった。

途端に、フランクの感覚が限界を超えて開放され、生きたまま肉片にされて、自分の部屋の壁の中に閉じ込められてしまう。

フランクが現世に戻るために必要なのは、人間の血と肉である。自分の弟の嫁、ジュリアを誘惑し、バーで誘惑した男を何人も殺していく。フランクの部屋で流された、血と肉がすなわち彼の身体の養分となり、腐敗過程の逆まわしフィルムのように、フランクは、血と肉を取り戻していく。

狂気とともに。

本書は、映画「ヘル・レイザー」の原作で、ただし、ノベライズではない。

クライブ・パーカーはジョン・レノンの同窓生。他に世界幻想文学大賞を受賞した『血の本』シリーズがある。