写真集『カラスのお宅拝見!』宮崎学著・新樹社

昔、Hという大学のクラスメイトと御茶ノ水の喫茶店ミロンガに通っていました。Hはアイスココアを頼み、僕はただのコーヒーを。

Hはラテンアメリカ文学の本が好きで、よくその話と、カラスの話をしました。カラスは北海道から九州にかけて、ハシブトカラスとハシボソカラスがいて、ハシブトのほうが身体や嘴がおおきく、ハシブトは都会と山奥、ハシボソは郊外といった感じにすみわけられている云々。

そのとき、はじめてカラスに、種類があり、漠然とカラスだと思っていたものに、ハシブトカラスという名前があることを知りました。それからなんとはなしに、興味をもってカラスを見つめるようになり、黒田硫黄の漫画やら何やら、気をつけて読むようになりました。

 

カラスが、圧倒的に興味深いのは、作者のいうように「カラスほど、われわれ人間のことをよく観察している動物はいない」からです。

カラスの巣の材料は、人間の、あるいは周囲の生活に密着しており、犬の毛が多い巣の近くには犬の散歩コースがあり、狸の毛が大量にある巣の近くには屍骸があったり、環境を反映しています。過疎地のカラスの巣には白髪の老人の毛がつかわれており、都会のカラスの巣には化繊綿やグラスウール(断熱材)、ハンガー、ロープ、テグス、コードなどありとあらゆる人工物が使われ、また、殺菌作用のあるスギやヒノキの皮を使って、腐りかけの餌を食べるための工夫をしているのも、面白い。

本書には、日本全国津々浦々から取り溜めた100の巣が撮影されていて、一点一点につき、建築写真のようにデータが記されています。おおざっぱな巣もあれば、工芸品のように美しく整えられた巣もあります。巣ひとつとってみても、カラスの性格の違いがすけてみえ、ただ眺めるだけの写真集に、読み応えがあります。

壮観なのは、長野のJR明科駅の構内の架線や駅舎にずらっとならんで眠っているカラスの写真。

ときどき夢でもみているのか、小さく「クァー」と寝言のように喉のポケットにしまいこんでいる一円玉やビーズ玉などのおもちゃを嘴でカチカチと鳴らしながら眠っているそうで、今にも音が聞こえてきそう。

カラスは巣で眠らないということに今更気がついた次第。