『フランケンシュタインの方程式』梶尾真治著・早川書房

パスティーシュという言葉を使うと、どうしても清水義範を想起してしまうのであまり使いたくないのだが、凄腕のシェフが腕によりをかけた豪華絢爛なパスティーシュSF短編集。

ざっと思いつくだけで、

「宇宙船<仰天>号の冒険」→「宇宙船ビーグル号」

「ノストラダムス病原体」→「アンドロメダ病原体」

「フランケンシュタインの方程式」→「冷たい方程式」

がカバーされている。

トム・ゴドウィンの「冷たい方程式」は、「知の千本ノック」でおなじみの、マイケル・サンデル先生が取り上げてもおかしくないSFの名作中の名作で、致死性の疫病が発生した惑星・ウォードンで待つ6人のために、血清を届ける小型宇宙船の中で起こる密室劇。燃料も酸素も、最小限の量しか積まれていない宇宙船のなかに密航者がいた。船員と血清を待つ6人が助かるためには、密航者をエアロックから真空の船外へ放り出されなければならない。しかし密航者は、疫病で生命の危険にさらされている兄に会う為に軽い気持ちで密航した18歳の少女だった……。「カルネアデスの板」と同様の難題を、大胆に料理。

このSFを面白がる才能は驚異だと思うけれど、あくまでそれは「地球はプレインヨーグルト」の前菜に過ぎなかった、というのが最大の驚き。

「地球はプレインヨーグルト」は、「《味覚》としか呼びようのないものによるコミュニケーションを行なうらしい」宇宙人との通訳のために世界連邦から駆り出された世界各国の伝説のシェフたちと、コンタクト役として鎮座する謎のフィクサー熊根老人が、濃厚なゴルゴンゾーラのニョッキのように絡みあう。

熊根老人は、真の味覚を求道するために、自主的に失明し、咀嚼感からくる味覚誤差を修正するためにすべての歯を抜歯、慢性的蓄膿症すら治さないという、純粋味覚馬鹿。世界連邦大統領すら顎で使う、この老人が最後に求めたのは、宇宙人を通してもたらされるかもしれない「現世最高の味」。世界連邦は、宇宙人とのコンタクトで、宇宙人のテクノロジーを盗もうとしており、宇宙人は宇宙人で、ある目的をもって、地球にやってきていた。

三者の思惑が交錯しながら、それが活気のある厨房を通して語られる、というSF史上かつてない試みは、ジャンルをこえて屹立している。レックス・スタウトにも劣らない絶佳の名作。

本の編集には異論があるが、この一作だけで、この短編集は他の「パスティーシュもの」とは一線を画している。