2010年

9月

02日

『アマゾン・ドット・コムの光と影 潜入ルポ』横田増生著・情報センター出版局

アマゾン・ドット・コムは、1994年、アメリカの西海岸で、ジェフ・ベゾスが立ち上げた「通販企業」である。通販企業にとっての中核は、物流である。ネット通販の先進国アメリカでは、商品が顧客に届く「最後の1マイル」が企業の優劣をわける、といわれるほど、物流が重視されている。

本書は、物流業界誌の編集長をつとめた著者が、鎌田慧の『自動車絶望工場』ではないけれど、物流センターでアルバイトをしながら、なぜ24時間以内に発送でき、なぜ1500円以上の配送料無料が可能なのかを取材した。

アマゾンのすごさは、純粋に売上である。

リアル書店の売上ランキングは、紀伊国屋と丸善が1000億円を超えてトップを走り、文教堂、有隣堂が400~500億円で二番手集団につけている。

アマゾンは、2003年の時点で、既に500億円を超えており、続く、04年にはすでに1000億近い売上を出して、実は、日本の書店ナンバーワンといってもいい実績をあげている。ただし、アマゾンの決算書は、秘密めいていて、国ごとの売上を公開していないため、あくまで概算にしからないが、1店舗のアンテナショップも持たずして、この数字をたたき出しているのは驚嘆に値する。

本が売れない、とよく耳にするがそれが図らずも、リアル書店の工夫が足りないことを露見させた。書店員には接客というものがほとんど必要ない。あるとしても、それは、その本がどこにあるのか? なければ取寄せでどのくらいの日にちがかかるのか、を答えるだけである。詳しいことを聞いてもわからないし、わからないほど本には種類が多い。

本は、日本で流通しているだけでも50万タイトルあるといわれており、1年間に7万タイトルの新刊本が出版されている。1日平均200タイトル。

少量多品種の王、たるものが本なのである。

その情報すべてを追うのは当然、無理があるし、第一、文房具や日用品のように、代えが聞かないところも本の特質である。

ボールペンは、種類が違っても書けるという機能は同じだが、同じ分野の本はあっても、内容はまったく違う。マンディアルグの本が欲しい人は、マンディアルグ「のような」本が欲しいわけではないのである。

アマゾンがテコ入れしたのは、まさにここである。

べゾスは創業以来、一貫して、顧客を満足させるにはどうすべきかを考え、実行してきた。

べゾスは、”顧客第一主義”を唱えて、ネット上に癖のある「小さな書店」を作ることを目指してきた。それを達成する手段として「マイストア」と「カスタマーレビュー」を生み出し、売上を拡大してきた。顧客がふえればふえるほど、統計とデータによって、趣味趣向に即した商品をすすめてくれるようになり、顧客データの分析は、そのまま正確な需要予測となり、結果として全世界に4000万人の顧客をかかえるほどになる。まさに完成された、といっても過言ではないこのシステムは、べゾスが愚直なまでに”顧客第一主義”を貫き通してきた証左でもある。

べゾスは、

「私たちが注意を払う相手は顧客であって、競争相手ではありません。競争相手をよく観察し、学ぶべきところは学ぶ。また、良いサービスを顧客に提供していれば、自分たちもできるだけそのサービスを採り入れようとする。でも、競争相手を意識するつもりはまったくありません」

といい続けてきた。

在庫回転率は、1999年が6回、続いて、12回、16回、19回、18回と、年をおうごとに伸びている。日本のリアル書店の在庫回転率が5から8回であるのと比較すると、そのすごさが歴然とする。

物流センターに返品されるのは、1万件に1件という、ほとんどゼロに等しい数字。これも、一般的な小売業の感覚からしてもありえない。

佐野 眞一は『だれが「本」を殺すのか』でべゾスにインタビューしており、

「べゾスは本に対する情熱こそアマゾンの生命線と言葉ではいったが、その情熱は残念ながらほとんど伝わってこなかった。それよりも、彼がかつて『オレの売場は全世界二五〇〇万台のパソコンのなかにある』と豪語したエピソードが生々しく甦ってきた」

とその印象を描いている。

アマゾンの物流センターにおいて、アルバイトとは、時給で働くロボットにすぎない。アルバイトが即戦力になる得るようにシステム化されている。つまり、「熟練」が必要ないということでもある。部品として切り捨てられ、必要になれば必要最低限のコストで購入する部品。

本に対する愛もなければ、人を育てようという意志もない。

アマゾンの本当のすごさは、知っている人にまかせる、その徹底したシステムにある。

本に「カスタマーレビュー」がつくと、その商品の売上が約1万円増えるという。本が売れれば売れるほどデータが正確になり、そのデータがまた新たな売上につながる。本来書店員がやるべき仕事を、客にやらせているだけでなく、その言葉には忌憚がないから、購入の決め手にもなりやすい。顧客のためになることならなんでもやる透徹した意思。

リアルの世界と違って、カバーできる範囲に上限もない。まさに鬼に金棒。