『地球盗難』海野十三著・ソノラマ文庫

矢追村の北にあるクヌギ林は、村人から「魔の森」とよばれ、恐れられていた。

「第六感」で偶然、この村に居合せた大隈学士が、

 

「この村には興味ぶかい謎がウンと落ちているのだ。まるで多元連立方程式の、その要素をなす一つ一つの方程式があっちこっちにバラバラ落ちているといったような形だ。それを適当に組み合わせてそれぞれの答えを得るのも面白いことだが、その答えの奥の奥にまた一つの大きい答えがあるような気がする。それは一つの世界を誘導することになる。」

 

といえば、アーチー・グッドウィンも真っ青な助手の役どころ、威勢のいい新聞記者、佐々砲弾は、

 

「そんねちんぷんかんぷんの寝言は後回しにして、われわれはいま、冷静かつ果断に事件の心臓部を突破せにゃならないんだッ。」

 

と、「ビールの泡だったコップを大隈学士の頭の上に載せて」気炎をあげる。

「魔の森」にカブト虫をとりにいったまま失踪した武夫くんの事件を発端に、一年前に突如として沖に碇泊した外国船の謎、蜻蛉の発生が異常に遅れているだけでなく「いつも真西より三十度ほど北にふれた方角にばかり向いて飛んでいる」怪、武夫くんの失踪に続く、お美代ちゃんの妹の失踪などを、謎が謎を呼び、そのすべての謎が、容貌魁偉の辻川博士を指し示していた。

中世の城のように高い塀にかこまれた辻川博士の邸宅には、奇怪なる起伏凹凸をなした人造山岳地帯のような箱庭で、丘陵があるかと思えば、泉水が流れ、雑木林があるかと思えば、巍然(ぎぜん)として洋風の塔がたっていたりする。

佐々砲弾が、飛び上がった途端に空中分解していく、自慢の愛機「空の虱」という軽飛行機を操り陽動をひきうけて、大隈学士が博士の邸内に忍び込むと、そこには変わり果てた武夫くんが檻のなかに閉じ込められていた。

大隈学士は勇躍して、中に入り込むと、そこには恐ろしい陥穽がまちうけていた。

「まるで西洋の悪魔が無人島に流されたように実に凄愴な顔をした」(どういう顔?)辻川博士につかまった、大隈学士を助けに佐々砲弾ものりこんでくるが、寸でのところで二人とも捕まってしまう。「大隈学士ほど、未来を粗末にしない人物も、まず少ないであろう。」という、大隈学士は脱出に成功するが、佐々砲弾は、辻川博士の処刑ロケットに乗せられたあとだった。

佐々は、なんとか一命をとりとめるものの、ロケットは既に地球から遠く離れ、なんとウラゴーゴル星に向かっていた。ウラゴーゴル星に上陸した佐々は、驚愕の事実を知り、大隈学士は「すこぶる大胆なる説」(本当に大胆)をたてる。

「地球が盗まれていた」という発想が見事。

海野十三は、ウンノ ジュウザ、もしくはジョウゾウと読む。日本のSFの父の一人。

シャーロック・ホームズをもじったという帆村荘六の連作でも知られるが、本書は昭和11年(つまり1936年!)に『ラジオ科学』誌に発表されたSF小説。

発表された年代時代が既にSFだが、中学三年の武夫くんは「はッはッはッ」と笑えば、小学校を卒業したばかりのお美代ちゃんは「ホホホホ……」と笑う。

武夫くんの父親が「本懐の微笑」をもらしたり、「それはまるで千里の波濤を越えて、異境に遊ぶの想いがあった。」りする。

大好きです。海野十三。