2010年

10月

01日

『文士料理入門』狩野かおり・狩野俊著・角川書店

『富士日記』を読んでいると無性にお腹がすきませんか? 

「牛肉と桜えびのやきそば」、「茄子にんにく炒め」、「羊の肉の水たき」なんかは、活字でみているだけでも胃がしくしくと泣きはじめてしまう。「文士料理」と名づけられた、本のなかでしか出会うことのできなかった幻の料理が、なんと一冊のメニューに。

内田百閒の「オックスタンの鹽漬」!

宇野千代の「極道すきやき」!!

どんな味かも想像できない向田邦子の「いちじくのウィスキー煮」や、「卵とレバーのウスターソース漬け」。

よだれがとまらない。

草野心平のSymphony(シンフォニー)を呑みながら、檀一雄の「大正コロッケ」をつまみ、吉田健一の「新橋茶漬」でしめる。

こんな贅沢が許されてもいいんだろうか。

これが夢物語じゃなかったらなんだ! と思っていたら、なんとこのメニューが、全部食べられる(しかも高くない!)。

場所は高円寺。

お店の名前は、「古本酒場コクテイル」。

料理を読むだけではなくて、引用も絶品で、たとえば「酒豪にして剣豪」(荻原魚雷)の立原正秋からは、

 

「文化といってもいろいろな文化があった。

文化勲章や文化鍋のような文化もあった。ところがこちらは烏賊の塩辛をいかにおいしく工夫して食べるか、目刺をいかに上手に干して焼くかの本物の文化であった。はやりすたりがなかった。」(『その年の冬』「林の中」)

 

メニューは日によって違うので、食べたいものを食べるには、運と根気が必要だが、通い続ける価値がある。とにかく言えることは、「茄子にんにく炒め」は鉄板だということ。茄子が苦手でなければ是非一度お試しください。