『燠火』マンディアルグ短編集・生田耕作・訳・白水Uブックス

マンディアルグの小説を読むたびに、公共の場でこの小説をこのまま読み続けていいのだろうかという背徳感に悩まされる。当然、いい、どころか、これ以上なく宜しいわけですが……。

 

「ジャン・ド・ジュニはまるで穀物でもたたくような、石でも砕くような調子で励み続けるのだった」(「幼児性」)

 

この励むというのは、ご想像のとおり、男女の営みである。

万事この調子で話柄(?)が下がりますが、バルビュスの『地獄』(懐かしい!)も真っ青である。

何百年来父祖の家業を継ぐ宝石商の娘にして、正確無比な宝石鑑定人の美少女サラが、ふとした弾みで、ダイヤモンドの内側に閉じ込められてしまう「ダイヤモンド」でも、これは同じで、この透明な牢獄の中にはサラのほかに、一人の男がいる。「頭部はライオンのそれに似て」いて、「肌は、いたってなめらかだが、燃えるような赤味を帯びている。大きなたてがみがほとんど目に耐えがたいほどの金色のきらめきで輝いていた。」だけでは、やはり済まされない。

 

「性器は直立していた。それは臍までの距離のほとんど三分の二に達していた。生まれてはじめてこのようなものを目にしたサラは、大きな人間に取りつけられたこのいうなれば小さな人間とでもいうべきものを(といっても陰嚢が巨大なたてがみにおおわれた頭に相当するとすれば、逆立ちした姿勢になるわけだが)、物珍しげに眺めるのだった

(中略)

二人が動き回れる空間はまったくあまりにも限られていたので、彼女をつかまえるのに彼はそれほど苦労はしなかった。

(中略)

彼女に向かって男は、この高貴な石の中へ彼女が入ってきたのは、ほかでもない、彼と結ばれるためであると告げるのだった、どうしてかといえば預言者を生んだ民族の処女と、太陽光線の中から現われた、その素性ゆえに炎のように赤いライオンのたてがみをつけた男との間に、近い将来、迫害の民を導いて、全世界を照らし支配する、秀でた精神をそなえた子孫が生まれ出る宿命なのだからと。その言葉を聞き終わると、彼女はさからうのをやめた。自分がユダヤ人であることを誇りに思っていたからだ。」

 

まさに詭弁ですな。

どうでもいいことですが、このダイヤの内側に閉じ込められる設定は、澁澤龍彦が『犬狼都市』で、そっくりそのまま使って失敗している。

ポルノ・グラフィーは、どうしてだか軽んじられるが、自分の欲望をここまで塗りこめるのは、一言でいって素晴しい。マンディアルグの文章には艶があるだけでなく、

 

「行きつく先は、いつも血だ。現在と過去をつなぐものはこれしかない。」(「ロドギューヌ」)

 

など、どきりとするものや、「階段の下を眺めるために、身を乗り出してみると、目に入るのはただ真っ暗な《永劫のように》深い井戸の一種だけだった」という古めかしい建物のなかで夜な夜な繰り広げられる舞踏会に参加するためにやってきたフロリーヌの「いまわしい眼覚め」を描いた「燠火」。

一行一行に想像力をかきむしられる、純度100%の前衛文学。