いざ鎌倉

大船駅の巨大仏を尻目になおもいくと、「武家の古都」とのぼりがひるがえる鎌倉駅につく。駅前には何台ものバスがとまり、修学旅行とおぼしき高校生たちがあふれかえっている。モーゼのごとくにその間をわけいると、レンタルサイクルショップがある。時間貸しで、3時間かりることにする。 店員の二人組から顔見知りのように気さくに話しかけられるのをふりきって、何号線だかをとにかくペダルをこぎ倒すと、目の前がいきなりひらけて、海がみえる。 それほどきれいではないのだろうけど、ただただきれいだと思う。海の上にはサーファーたちがぽつぽつとほくろのように黒々と浮かんでいる。

海沿いの道を由比ヶ浜だか稲村なんとかだかを坂をのぼったり、くだったりしながら、なおもふみ続けると、ハワイ調のカレー屋「珊瑚礁」がある。豪奢なつくりの階段をのぼって自動ドアのボタンを押すと、だしぬけに季節感を完全に無視したスタッフたちのアロハモードに圧倒される。男はオールバック、女はスリット入りのドレスとドレスコードが決まっているのか、にぎにぎしくて目の前が明るくなる。窓際の席に坐ると、まさにオーシャンビューでリゾート地にきた気がしてうれしい。

名物のカレーは破格のうまさで、一さじのスプーンのなかに何層にもわかれたうまみが踊っている。気がつくとカレーだけを食べ過ぎていて、ライスが皿の上に残ってしまった。あわててルーをせせりながらライスをたいらげると、猛烈な幸福感に襲われる。 自転車を押しながら、砂浜を歩いていると、寝ころんでいるカップルがいて思わず追従したくなるが、自転車をとめて砂浜づたいに海を触るだけにする。砂浜にねそべって空と海をみているとさぞかし気分がいいに違いない。 カップルはにこにこと笑っていた。

ハンドルを山に向けると、老舗のお餅屋、力餅屋があるがあいにくのお休みで食べられず。駅の北側までもどると坂をのぼって「もやい工藝」にいく。宮本常一の弟子にあたる久野恵一さんのお店で、日本の美しい手仕事を集めた民藝のお店。絶品のうつわがそこそこの値段で買える。今回は島根県の出西窯(出西ブルーで有名)のすり鉢を求める。これですりおろした、とろろをあつあつのご飯にかけることを考えるだけでうれしくて、ついにやにやしてしまう。

自転車をかえして、豊島屋の鳩サブレーをかじりながら、鶴岡八幡さんにお参りする。倒れた大銀杏がさみしいけれど、参拝客の寄せ書きが愛らしくてよい。くるみっ子の本社で、わけあり品の真空パックをごっそり買い、足をのばしてドイツの洋菓子屋ベルグフェルドまで歩く。ドイツパンのほかに、クッキーを買い込む。両手はすでにふさがっているが、鎌倉まできて「こ寿々」の前を素通りすることなどできない。わらび餅を買って帰る。旅行というよりかは単に食べ歩きだが、一日の疲れをいやすに、きな粉と黒蜜のタッグは無敵である。