2011年

6月

13日

『天山を越えて』胡桃沢耕史

外套の仕立て職人だった老人が主人公の越境小説。

とにかくぶっとんでる。

ある婦人のお伴をすれば旅費が全額免除になるという奇妙な依頼を発端に、老人のとんでもない過去が明らかになっていく。その仕掛けが絶妙。

20年前に一度だけ書いた中国大陸を舞台にした特異な自伝小説が挿入され、これだけでも十分に読めるのだが、この自伝小説を書いていた時代にさかのぼり、そこにアメリカの日本監視機構が登場してその時代のソビエトのスパイの暗躍や原爆の研究者の孤高の旅などがあわさって、それがなんと一つの物語に、つまり老人の物語に収斂していくのだから、目が離せない。こんなにアクロバティックな小説はそうそう読めない。胡桃沢耕史を読み直さなくてはならない。