『岬』中上健次著・文春文庫

来月、熊野巡りをしようと思い立って、中上健次を再読することにした。食指が動くのは何と言っても三部作でしょうね。

 

まずは『岬』。 と読み直して驚いたのは、文章が読めない。

あれまー、という感じで、木箱をこじあけるように、という『夢の力』の一節を思い出してしまった。

『岬』は短編集でありながら、ある血族の物語の変奏曲である。回想される過去はすべて同じで、源流へと回帰したあとに、そこから別の物語へと枝葉をのばすように広がっていく。

『岬』という短編集の核になっている部分は、おそらく、

 

「彼は、ことごとくが、うっとうしかった。この土地が、山々と川に閉ざされ、海にも閉ざされていて、そこで人間が、虫のように、犬のように生きている。」

 

ではないか。

この閉ざされた土地に重力で縛り付けられたある血族の物語が、紀州サーガとして結晶していく。

 

ところで、中上健次の魅力ってなんですかね。

わたしは正直にいって、それほど魅力を感じないのですが、ただ『夢の力』しかり、『岬』しかり、文章を最後まで読み通したあとに書かれた、「後記」が抜群にいい。 もしかすると一番、後記がいいのかもしれない。

短いので引用します。

 

「「黄金比の朝」は一年半前に書いた。

 吹きこぼれるように、物を書きたい。いや、在りたい。ランボーの言う混乱の振幅を広げ、せめて私は、他者の中から、すっくと屹立する自分をさがす。だが、死んだ者、生きている者に、声は、届くだろうか? 読んで下さる方に、声は、届くだろうか?」

 

わたしは中上健次の良き読者ではないが、それでも届いてますぜ、と言いたくなる。