『ツィス』広瀬正著・集英社文庫

宮内悠介は『盤上の夜』に続き、『ヨハネスブルグの天使たち』が立て続けに直木賞にノミネートされ、今もっとも耳目を集めるSF作家の一人だが、1970年にデビュー作を上梓し、二作目、三作目と立て続けに直木賞にノミネートされたSF作家がいた。それが、本書の著者、広瀬正です。司馬遼太郎のみが激賞し、そのほかの選考委員が軒並み反対に回り、受賞には至らなかったが、その理由は著作を読めば読むほどにわからなくなっていく。文章といい、構成といい、やや難があるタイトルをのぞけば完璧というしかない珠玉の小説です。

本書は、二作目で、タイトルのツィスは、二点嬰ハ音という奇妙な耳鳴りの音を、絶対音感で表現した言葉。

精神病院を発端に、奇妙な噂とともに広まる、耳鳴りがやがては首都圏全体に波及するパニック小説へと展開していく。処女作の『マイナス・ゼロ』に比較すると、中盤のプロットが弱い気もするが、ジャズ・サックス奏者の著者の面目躍如とした快作。

広瀬正が生涯に書いた作品は、たった六作。だが、その作品のすべてが色あせずに輝き続けています。集英社文庫で読めるので、是非コンプリートしてください。