books335『歩く』ヘンリー・ソロー著 山口晃編・訳 ポプラ社

ヘンリー・ソローは、『森の生活』の著者として有名だが、実は、ガンジーやキング牧師に深い影響を与える「市民的不服従」の講演を行っていたり、アメリカの思想家エマソンと何より感動的な、深い交流があった。知らなかったのだが、ウォールデン版の全14巻になるソローの日記は、1837年10月22日、

 

「あなたは今何をしていますか」と彼はたずねた。「日記はつけているのですか」。それなので、私はいま、最初の日記を記す。

 

ではじまっている。この「彼」が当時34歳のエマソンで、この日記を書き始めたときソローは20歳だった。ソローはエマソンの家に住み込んだり、エマソンは自分の本の校正をソローに任せたりと文字通り蜜月の間柄が続いたのだが、次第に冷えはじめ、と同時に、ソローは著作の中でエマソンに触れなくなっていく。だが、ソローに失望し、袂をわかったはずのエマソンは、日記の中で絶えずソローに触れつづけ、晩年、認知症に苦しみ、「傘」という単語すら思い出せなくなったとき、彼は妻にこうたずねたという。

 

「ぼくの一番の友達の名前は何といったかね?」

「ヘンリー・ソローでしょう」

「ああ、そうだ、ヘンリー・ソローだ」

 

ソローは、エマソンに先立つこと20年、1862年にこの世を去る。ソローの墓に土が入れられたとき、エマソンはただ、

 

彼は美しい魂をもっていた、本当に美しい魂をもっていた

 

と顔をそむけた。

すべての植物のなかで、地上のバラと、水上のスイレンを愛した孤高の散歩者の軌跡。