books335『掏摸』中村文則著 河出文庫

チャンドラーがミステリを文学にしたのなら、中村文則は文学でハードボイルドを超えたのかもしれない。ぶっとびました。一読巻おくあたわざる、hard to put down、とにかく何でもいいのですが、手が離せなかった。タイトルの掏摸は、そのままでは読めないが、そのものずばり、スリの物語。スリはしみったれたといったら、語弊があるかもしれませんが、主題になりにくそうな階層の犯罪にもかかわらず、中村文則の手にかかると、実にエレガントで、最高。

本書には姉妹編の『王国』があり、これまた読ませる小説ですが、この本の唯一の欠点をあげるとすれば、それは著者自身の解説。

 

「この小説を書く前、『旧約聖書』を読んでいた。偶然ではなく、もちろん意図的に。」

 

言いたいことはわかるし、ここまで広く読まれている本書だからこそ書いておきたかったという気持ちは理解できるが、編集者が止めるなり、なんとかこらえてほしかった。このあとがきは鑑賞の妨げにしかならんと思います。