『スイッチ! 「変われない」を変える方法[新版]』チップ・ハース&ダン・ハース著 千葉敏生訳 早川書房

後輩が不透明なビニール袋を持ってやってきて、僕の人生を変えた一冊です、といって去っていった。一瞥して自己啓発系の本ではないかとの危惧を覚えた。

この系統の本は、注意深く読まないように意識してきたので、正直に言って戸惑いしか感じなかったが、本気で薦められた本は真剣に読まなければならない。結論から先に書くと、実にいい本だった。

 

本書で取りあげられているのは、ベトナム政府から栄養不足の解決を依頼されたセーブ・ザ・チルドレンのジェリー・スターニンや、問題児を担当するスクール・カウンセラー、過疎化が進み死につつある町を復興に導いた高校生グループ、乳がん患者のニーズに応える為に立ち上がったカリフォルニア大学の外科准教授、クリントン政権時代に連邦調達政策局の運営を変革したスティーブ・ケルマン、カリブ海のセントルシア島で絶滅に瀕していたインコの運命を変えた大学生ポール・バトラー、イギリスの石油大手BPや米国の銀行シアーソン・リーマン、小売大手のターゲット社など文字通り多岐に渡る。

 

共通している問題はほとんどないが、登場人物たちが置かれている環境は、ほとんど似通っている。 

ベトナム政府から招聘されたセーブ・ザ・チルドレンのジェリー・スターニンは、出迎えられた外務大臣から政府の全員が歓迎している訳ではないと早々に釘を刺された上に、半年以内に結果を出すようにと脅されているし、乳がん患者の為に立ち上がったカリフォルニア大学の外科准教授ローラ・エッサーマンも意のままに使える予算や人材はほとんどなく仮に自身のクリニックを立ち上げたところで職員の雇用すらままならない困難な状況にあった。

彼らが抱えている問題はそれぞれ深刻で、幅広く、解決する為には絶対的困難が待ち構えていたが、それに立ち向かう登場人物たちには解決に導く為の権限や予算は与えられていなかった。

彼らが持っていたのは、ちょっとしたアイデアと情熱であり、変革を成し遂げる為に踏み出した一歩は、想像以上に小さく、驚くほど具体的だった。

 

健康的な食生活を推進させる為にウェストバージニア大学の二人の教授が、取り組んだことは、「もっと健康的に行動しよう」というような真実だが役に立たない提言ではなく、次にスーパーに立ち寄ったら、ホールミルクではなく「低脂肪乳」を買え、という具体的な指示だった。

ジョージア州のアトランタ小学校でクリスタル・ジョーンズが、9か月前までアルファベットの読み書きすらできず、鉛筆の持ち方さえ知らなかった小学一年生たちのやる気に火をつけたのは、「今年度の終わりまでに、3年生になりましょう」という一言だった。

学校なんて最悪だ、といってはばからない問題児を前にしたセラピストは、考古学的な一般的なカウンセリングには頼らず、たった二つの質問に答えさせることで、劇的に中学生を立ちなおらせてしまう。

 

それぞれの事例に共通しているのは、選択肢を極力簡潔にし、あいまいさをなくし、明確な「目的地の絵はがき」を提示しているということだ。大きな変化は、ほんの小さな一歩から始めることができるのだということを見事に解き明かしている。

 

 

著者が成功している事例から導き出した結論は、「変化が成功するときには、一定のパターンがある」ということだった。それは、「変化に成功する人は、明確な方向性を持ち、十分なやる気を持ち、それを支える環境がある」ということ。

更に著者はいう。「組織の変革を考えてくじけそうになっているなら、こう考えてみてほしい。子の親になるのに必要な変化と比べれば、組織の改革などどうってことはない」。

 

もしあなたが何かを変えようとした場合、著者が提示するフレームワークは、きっと何かの役に立つはずだ。詳しくは、本書をお読みいただくとして、その項目の一部をここに書き写す。

 

1 象使いに方向を教える

ここでいう象使いは、理性の象徴。うまくいってる部分を探し、まねをする。

 

2 象にやる気を与える

ここでいう象とは人間の欲望のこと。知識だけでは変化を引き起こせない。感情を芽生えさせよう。

 

3 道筋を定める

環境が変われば行動も変わる。したがって環境を変えよう。

 

先に結論ありきで、当たり障りのない答えだけを黒字でデカデカと印刷されるビジネス書が横行する中で、本書のように事実から結論を導き出すという至極まっとうな手順を踏み、手間のかかる作業をおしまずに創り出された本と出会えたのは、単純に驚きとしか思えない。 

面白い本が読みたければ、先入観は邪魔にしかならないことを痛切に教えられた。

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