<新人賞を読む>第一回「暮らしの小説大賞」『ジャパン・ディグニティ』髙森美由紀著・産業編集センター

勇気がなくて臆病。

レジ打ちもできず、まともに人と話せない。

友達もいない。

弟はオカマで、父は売れない漆職人。

唯一まともだった母親は、うだつの上がらない父親に愛想が尽きて家を出ている。

頑張った分だけ追い詰められて、行き場のなくなった美也子は、ついに生きる為にしがみついていたスーパーのレジ係を辞める決意をし、今までは父親の手伝いとしてしか関わってこなかった漆塗りに人生を賭ける。

 

父親の漆塗りの工房に持ち込まれた、漆塗りのお椀、唐塗の万年筆、漆のふりをした化学塗料の杖を通して、美也子は物に血が通い、ともに生きている静物たちの声を聴き、持ち主たちとの人生と関わっていくことで、漆塗りの世界の扉を開く。


舞台は青森。

物語は愚直で地味。だが、誠実に書かれている。

最後の展開は、実際にありそうなぐらいに陳腐だが、それを補う言葉の魅力がある。

お金を「じぇんこ」。

励ますときは、「けっぱりあんせ」。

方言と標準語を織り交ぜる文章のリズムが実に気持ちいい。


本書のタイトルは、そのものずばり、漆の気品を表した英語。

オカマの弟が、人見知りの姉の為に開設したブログに、漆の紹介がある。

 

「漆は海外ではジャパンと呼ばれています。うるしの語源は『うるわし』です」

 

本書を読むまで、知らなかった。

漆はかぶれるし、においも強烈で、口にふくむとえぐみと苦さがたまらなくきつい。

でも、美しい。

ピアノブラックの原点は、漆の黒だという。

独特の輝きは漆にしか出せないのだ。

その輝きを出そうと、懸命に向き合っている著者の姿が小説の背後に透けて見える。

<千三屋>